Einführung・1

序章

「なぁ、タカ」
「何だ、ユージ?」
「…暇だな」
「あぁ、暇だな」
「何か、こう…さ。
 派手な事でも起きないかね」
「派手な事? パーティーとか」
「そうそう、パーティー!
 チョット人相の悪い奴が好きそうな
 硝煙の匂いとか満載で」
「際どい恰好のお姉ちゃんがゴロゴロ居て」
「そうそう! 最高だろ?」
「そうだな。で、俺達が参上する、と」
「呼ばれても居ないのに主賓の顔してな」
「良いんだよ。直ぐに俺達が主役になるんだから」
「流石はタカ。自己評価の高い男!」
「いやいや、褒めないでくれたまえユージ君」

「ねぇ、いい加減出て行ってくんない?
 その車、少年課のパトロールで使うんだから」

* * * * * *

男は30代から真価が問われるんだとはよく言ったもんだ。
昔の人はつくづく善い言葉を残している。
丁度脂の乗った食べ頃の年代。仕事も前線でバリバリ熟す。
今が丁度、そんな時期だ。

鷹山 敏樹、30歳。大下 勇次、同じく30歳。
二人の初対面は或る意味最悪だった。
互いに「此奴とは息が合わない」と断言する程。
特に鷹山の毛嫌い具合が顕著であり
元々胃痛持ちだった近藤課長は
毎日胃薬を手放せない状態だった。

それがと或る事件を契機に意気投合し
今ではそれが当たり前の様に二人一緒に行動する様になる。

近藤課長の胃痛も少しは和らぐかと思われたが、
火と油が一緒になればどうなるかは誰もが考え付く所。
結局、近藤課長の胃薬の量が増えただけで今日に至る。

「鷹山、大下。お前達の給料から
 私の線香代を差っ引いておくからな!」
「何て事言い出すんですか、課長?」
「そうですよ、課長。俺達程、
 課長の事を考えてる部下は居ませんって」
「私の事を考えてるってんなら
 どうして毎回毎回県警と揉め事を起こすんだ?!」
「俺達は別に揉め事なんて起こしてませんよ。
 なぁ、ユージ?」
「そうそう。県警が俺達に絡んでくるんですもん」
「お前達が県警の管轄に迄
 首突っ込んで荒らすからだろうが!!」
「そいつは一寸心外だなぁ~。
 県警が俺達の縄張りを荒らしてるんですって」

大下は鷹山の言葉に続こうとしたが、
流石に目の前の近藤課長の顔色の悪さに気付き
肘を使って合図を送る。

『この辺で止めておこう』

状況判断に於いては大下の方が一日の長がある。
この点は鷹山も素直に認めており、
彼の判断には基本的に素直に従っている。

「では課長、我々もパトロールに勤しんでまいります!」

おどけた口調で敬礼をし、大下はそそくさとその場を後にした。
全く同じポーズで一礼すると、鷹山もそれに続く。

「全く彼奴等ときたら…」

残された近藤課長は溜息を吐くほかなかった。
Home Index ←Back Next→