「此処…が…」
「…みたいだな」
「何と言うか…何も無い、な」
「…あぁ」
「此処に最短…どれ位、だっけ?」
「…1年だったかな?」
「……」
「…古代?」
「先が思い遣られるぜ…」
「……」
火星基地入口に立ち竦みながら
ガランとした空間に唖然とする。
本当に人の気配すら無いのだ。
本来なら引継ぎも有るのだろうが
只今激戦真っ只中の地球防衛軍に
訓練基地の彼是(あれこれ)迄は
気が回らないらしい。
「何をどうしろってんだよ、全く…」
「マニュアル位は有るだろう。
先ずは部屋へ行こうぜ。
この分じゃベッドメイキングも期待出来ん」
「あぁ、そうだよな。
寝る場所だけは確保したいぞ」
「そう云う事だ」
そして俺達は…
先程の俺自身の言葉に
深く項垂れるしかなかった。
考えてみれば、
これも又【軍人】の側面なのだろう。
俺達は基地配属なのだから
寮やホテルと同等に考える方が可笑しい。
解っては、いる。
だが、余りにも乱雑なその部屋の使い方に
どちらかと言えば神経質な俺は
正直我慢ならなかった。
「先にシーツを洗濯する」
「島…。マ、マニュアルに目を通してからでも…」
「軍人は体が資本だ。
食事と睡眠は十二分に取らねばならない」
「そりゃそうだけど…」
「軍営地ではなく基地だと云うのにこの有様だ。
俺はこう云う姿勢から糺(ただ)すべきだと思う」
「……はぁ」
古代の声を尻目に、
俺は素早くシーツを丸めると
そのまま洗濯の出来る脱衣所へと向かった。
* * * * * *
機械のメンテナンスだけは
異常無く行われていたらしい。
訓練用の基地とはいえ、
メンテナンスすらまともに行えない様では
実戦では何の役にも立てないだろう。
この基地に配属される者は
将来的に【上位職】に就くとされる。
人の上に立ち、指示を出すのだ。
総合的に能力を育てなければ
部下も共倒れ間違いない。
「今日から此処で…」
未来の自分の姿に思いを馳せ
俺は基地内と歩いていた。
此処でどれだけの事が出来るのか。
どれだけ成長出来るのか。
不思議と、胸が高まった。
「古代」
脱衣所にてシーツを洗濯していた島が
何かを持って近付いて来る。
「どうした、島?」
「着替えろ」
「ん?」
「制服、これだ」
「あ、あぁ。有難う」
「どういたしまして」
島はクスッと微笑を浮かべた。
本当に昔から何も変わらない。
「職務に就くのは
一息吐いてからでも良いだろう。
紅茶淹れたから、飲むか?」
「あぁ! 丁度、咽喉が渇いてたんだ!!」
「それは良かった」
嬉しそうな島の笑顔。
コイツと一緒に居られた事に
俺は心から安堵していた。 |