実習は確かに何度か経験は有ったし
島と組んでたのも事実。
だが、この火星基地に赴任されてから
俺は今迄気付かなかった
島の意外な一面に度々驚かされた。
先ずは正確な記憶力。
こんな数桁迄も覚えているもんだから
少しでも好い加減な調整をしようものなら
必ず雷が飛んでくるのだ。
まぁ、好い加減に調整するのは
俺しか居ない訳だし。
精密機械を思わせる様な細やかさも
アイツの性格を考慮すれば納得だった。
別に指示された訳でもなく
アイツは自然と自発的に
日記を付けていたのだ。
「お前、日記付けてるの?」
「あぁ」
「何の日記?」
「観察日記、かな?
何か変化が有れば
直ぐ上に伝えないといけないし。
詳細な情報を持っていないと
何かと不便だからさ」
「へぇ…。それ、毎日?」
「勿論、毎日だ」
「ふぅ〜ん」
「古代も日記に興味有るのか?」
「まぁ〜ねぇ…」
「じゃあ、一緒に付ける?」
「え?」
「ノート、取って来る」
「お、おい! 島!!」
島は俺が呼び止めるのも聞かず
奥の部屋へと向かって行った。
其処に必要備品として
筆記用具が有るのを俺も知ってる。
だからって。
「口は災いの元、ねぇ…」
俺は困った顔を浮かべ
ボリボリと頭を掻くしかなかった。
島からノートを手渡され、
その日から俺も一応
日記を付け始めたのは良いが…
こう云う性格だ、勿論続かない。
文字通り、3日で根を上げてしまった。
「やはり続かなかったか」
「お前! 解ってて勧めたな!!」
「気分が乗れば続くかなぁ〜と
期待はしてたんだぜ」
「島ぁ…」
「昔のお前なら最初に断ってたろ?」
「ん? あぁ、そう言えばそうだな」
「…嬉しかったよ」
「何が?」
「お前がノートを受け取ってくれた時」
「……」
「断られるかも知れないって思ってた。
だから、嬉しかったんだ」
「続かなかったけどな」
「良いんだよ。それでも」
「島…」
「3日も一緒に出来た。
それだけで、俺は嬉しかったんだ」
嘘なんかじゃない。
島は、やはり昔と変わらない。
心から安心出来る笑顔を浮かべ
俺に微笑みかけてくる。
不思議だった。
どうしてコイツは変わらずに居られるのか。
俺はこんなにも変わってしまったのに。
「古代?」
「あぁ、何でも無いよ。
少し休憩を取らないか?
細かい数字を見続けてきたから
肩が凝っちゃってさ〜!」
「はは、そうだな。俺もだ。
じゃあ温かい飲み物でも淹れようか」
「取って置きの物を頼むよ!
珈琲でも、紅茶でも!」
「了解した」
島の後姿を見送りながら
このまま時間が止まれば良いのに…
等と、甘い期待を浮かべ
俺は慌てて頭を振った。 |