火星基地の実地訓練の話は
正直、眉唾物だった。
そう云う訓練が有る事は知っていた。
しかし、こんな状況である。
一人でも多くの戦士を戦場に送り込むので
常に人では足りない筈だと
俺はそう解釈していた。
「しかしまぁ、順当かもな。
俺とお前だったらさ」
「……」
「大介?」
「いつか、こんな日が来るとは思っていたがな」
「ん?」
「精々長生きしてくれよ。
お前は前線に出る部署に赴くんだから…」
「大介……」
「身支度、済ませようぜ。
1週間後には移動なんだから」
「あ…あぁ……」
何故そんな事を言い出したのか。
戦場に赴くと言うのであれば
戦闘班も航海班も同じ様なものだ。
突き放す様にも取れる大介の言動に
俺は正直、どう判断して良いのか判らずにいた。
『寂しいなら寂しいって
素直に言ってくれれば良いものを。
あの頃みたいに、さ』
不貞腐れて、俺は乱暴な手つきで
次々と箱に物を放り込んた。
貴重品や壊れ物等御構い無しだ。
案の定、それを見るに見かねた大介が
横槍と云うよりもほぼ箱を奪い取った状態で
器用に次々と中身を整理し始めた。
「あ…有難う」
「……」
「…なぁ、大介?」
「何だ?」
「…そんなに直ぐ別れる訳じゃないんだし。
折角の実地訓練だからさ。
仲良くやっていこうぜ、な?」
「……」
「おい、大介…」
「訓練、だからな」
「ん?」
「遊びじゃないんだぞ」
「解ってるよ、そんな事」
「コスモガンの射撃訓練
やってる時間なんか取れないかも知れないぞ」
「う……」
「計器の測量やメンテナンス。
お前の苦手にしている表計算なんかも
日常業務に入ってるんだが」
「……」
「…逃げるなよ」
「ん?」
意外な言葉に、俺は思わず大介の顔を覗き込んだ。
大介は、笑っていた。
随分と無邪気な笑みを浮かべている。
『逃げるな』の真意は、笑顔の中にあった。
それに対する俺の答えは…決まっている。
「当たり前だろ?
俺を誰だと思ってるんだ」
「解ってますよ。
何よりも負けを認めるのが嫌いな
古代 進君」
「解ってりゃ宜しい…」
不思議な関係だと思う。
他の奴等とは明らかに違う
この穏やかな空気は何と例えるべきか。
相手が女だったとして
同じ様に穏やかになれるものだろうか。
俺は、違うと感じる。
多分…島 大介が相手でないと
この【空気感】は生まれないのだ。
俺と、大介でなければ生み出せないのだ。
単なる同級生でもなく、好敵手なだけでもない。
勿論 仲の良い親友止まりでも
甘いだけの恋人同士とも違う。
幾通りにも変化する関係性。
それが【俺達の姿】だとしたら…
この先、更に俺達はどう【変化】していくのだろう。
溜息を一つ落とし、俺は黙って天井を見上げていた。 |