火星基地での生活は
正直言って想像以上だった。
完備してある物等は無く
何もかも自分達で
準備しなければならない。
寝床の確保からして
期待出来ない程の荒れ放題。
「一体、前任者は何してたんだっ?!」
古代は怒りを顕にしながら
足元を派手に蹴り上げた。
「おい、其処。
腹立てたって現状は何も変わらんよ」
「だってなぁ、島!」
「文句言ってる暇が有ったら
手でも足でも動かせるだろ?」
「う…」
「これが戦場だったら…
もっと、何も無い状況だぜ」
「だよなぁ…」
「いや、そうでもないか…」
「ん?」
「…血塗れの死体に囲まれて
眠らなきゃならなくなるかも知れない…」
「…まさか」
「確かに今は艦隊戦が主だが
艦が大破すれば内部で人が多数死ぬ。
楽に死ねる保証なんて無い」
「そっか…。そうだよな」
「艦載機乗りだって同じだろ?
空調システムを破壊されたら
狭い空間で息苦しさに襲われながら
孤独に死の恐怖と戦わなきゃいけない」
黙々と作業を続けながら。
島の言葉はその表情と同じく重かった。
どうしてそんな事を急に言い出したのか。
古代は、いまいち島の心境を理解出来ずに居た。
「…な〜んてなっ!」
「…島?」
「何時迄もそんな時化た面してたら
飯にも有り付けないし、寝るにも困るだろ?
さぁ、能書き垂れてないでさっさと動く!」
「…能書き垂れてたのはどっちだよ」
先程とは別人の様な笑顔を浮かべる島に
古代は顔を顰めて見せる。
それが【無理をして作った笑顔】である事は
一目瞭然だった。
何故に其処迄して虚勢を張るのか。
此処には自分達二人しか居ないのに。
それが、古代には更に腹立たしかった。
島はいつの間にか【仮面】を着ける事を覚え
それを巧みに被って見せる。
自分を前にして、仮面を外す事はあっても
それが本当の彼の【顔】なのか…
断言する事が日々難しくなっていた。
* * * * * *
台所…と呼ぶには余りにも粗末な
簡易キッチンで
何とか火を確保する事は出来た。
温めたスープを口にしながら
古代はジッと島を見つめる。
狭い対面テーブルで
島も又、古代を見返す。
「…何?」
「こんな所でもさ」
「うん」
「温かい飯が食えるってのは
考えてみりゃ凄いよな」
「そりゃそうさ。
火と水が有れば何とか出来る」
「早く…」
「?」
「早くこの環境に慣れないとな。
戦場はこんなもんじゃない…」
「古代……」
「だろ? 大介」
古代はそう言って軽くウィンクを送る。
真剣な顔つきだった島は
面食らった様な表情を浮かべていたが
やがて顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。 |