Sommerurlaub

夏休みを目前にして
浮き足立つクラスメートを横目に
古代は黙々と課題をこなしている。

故郷の無い彼にとっては
最も憂鬱な時間であった。

この頃、兄の守は既に宇宙へと旅立っており
地球に身内は残っていない。
もし守が地上勤務であったとしても
彼は戻らないつもりで居た。

真田はそんな彼に対して
「気軽に帰って来い」と言ってくれたが
多忙を極める真田に
これ以上の負担を掛ける気には成れなかった。

「島…」
「ん?」
「お前、どうするんだ?」
「何が?」
「夏季休暇」
「…地球に戻るよ」
「そう……」

愚問である。
人一倍家族思いの島が
帰省しない訳が無いのだ。

「一緒に来るか?」
「え?」
「シェルター生活になるけどな。
 俺は地下都市出身だし」
「…良いのか?」
「良いよ」

実にあっけらかんとしたものである。

「長期休暇に入ると
 寮が閉鎖されちゃうからな…」
「えっ?」
「…知らなかったのか?」
「うん…」
「…だからか」
「えっ?」
「…こっちの話」

土方教官が島にそっと伝えて来た内容。
ルームメイトだから、だろうか。
それとも、何か思う所が有ってだろうか。
古代には伏せておけ、と
念を押されて伝えられた内容に
島は彼なりの納得を示した。

「で、どうする?」

島はいつもと変わらない
優しい笑みを浮かべている。

「じゃあ…宜しく頼むよ……」
「解った!」

嬉しそうな島の表情と声。
古代は思わず抱き締めたくなる位に
愛しくなり、胸を高鳴らせていた。

「…古代?」
「何でも無いよ……」

古代は照れ隠しに悪態を吐いてみる。
島は彼の心境に気が付いただろうか。

* * * * * *

島と2人で向かう地球は
ほんの少しだけ
優しく輝いている様に見えた。

火星の様に紅い惑星。
島と彼の家族は…
地球が碧い惑星である証明を、
海を知らずに地下で暮らして来たのかも知れない。

地球人でありながら、
地球の美しさを知らずに
生きてきた人達も居る。

そう考えると…
俺は彼等よりも【幸せ】だったのかも知れない。
そう、過去に於いては…。

「古代。次はモノレールで移動するよ」
「あ、うん」

島の笑顔は寮に居る時と全然変わらない。
故郷に戻ると云うのに
全くと言っていい程、変化は見られなかった。

やはりコイツは…
性格以外で見れば
相当優秀な宇宙戦士の資質を
備えているという事なんだろう。

本人の希望とは裏腹に…。

「古代?」
「あ、何でも無い。直ぐ行くよ」
「慌てなくても良いよ」

苦笑を浮かべる島の表情を見ていると
本当に同い年かと思う程、大人びていた。

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