[8] 愛用の銃

咲樹は手にした拳銃にそっと視線を落とした。

コルトローマン2インチ。

亡き父親の銃は確かニューナンブM60。
何度も手に馴染ませようと努力はしてみたが
彼女の腕は自然とコルトローマンを選んでいた。

西部署赴任後、大門から手帳と共に渡された
このコルトローマンには
どんな思いが詰まっているのだろうか。

「コイツの重さを良く覚えておけ。
 この重さこそが責任その物だ」
大門の言葉が強く蘇る。

「責任…重さ……」
懐かしい言葉だった。

「咲樹ちゃん! 署に戻るよ〜!」
平尾の声にハッと我に返った咲樹は
慌てて愛銃を腰のホルスターに戻した。

* * * * * *

3人の男にヘロインを渡したとされる
組員の割り出し、聞き込みが始まった。
大門直々の命令で
咲樹は当面の間、鳩村とコンビを組む事となった。

「素人さんにヤク売りつけるようじゃ
 本宅は火の車って事かしら」
「かもな。ま、ヤー様の考えてる事は解らんよ」

煙草を器用に口先で挟みながら
鳩村は一人のチンピラをマークしている。

「…木村 和彦。銀竜会系塩野組組員。
 奴をひっぱくってクチ割らせる」
「行きますか」

悪戯っぽい笑みを浮かべ、
咲樹が同意する。
そこに恐怖心は微塵にも感じない。
見た目以上の豪傑かも知れないと
鳩村は益々彼女に興味を示した。

「木村だな」
「な、何だよ?」
「西部署だ。一寸一緒に来て貰うぜ」
「!」

木村は鳩村の手を振り切り
そのまま逃走しようとした…が、
その前を咲樹が立ち塞がる。

「女の分際で…!」
木村は容赦なく殴りかかってくる。

「咲樹!」
鳩村は応援に出るべく駆け寄るが
咲樹は相手の体に触れる事無く
木村を見事に投げ飛ばしていた。
鳩村の目には少なくともその様に見えた。

「女の分際で何だって?
 チンピラさんの分際で刑事に楯突くからだよ」
自信満々に見下ろす咲樹。
容赦なく木村の右腕を踏みつけている。

「ハト、ひっぱろう」
「お、おぅ」
声に促され、鳩村は木村に手錠を掛けた。

* * * * * *

薬の切れた3人の男達は禁断症状に苦しんでいた。
とてもじゃないが尋問は不可能な状態だ。

「増えていってるんすね、こう云う連中」
北条は病室を離れ、谷に呟いた。

「人間ってのは時には弱い生き物だからな。
 だが薬は救っちゃくれない。
 自分を滅ぼすだけだ」
「本当に…」
何とも言えない嫌な気分だ。
こんな時、北条は決まって唇を強く噛み締める。

「…そうそう、ジョー。
 課長がお前さんを呼んどったぞ。
 カドヤで待ってるってさ」
「カドヤで…?」

呼ぶ相手もそうだが、呼ぶ場所も場所である。
ましてや今は昼間である。
昼間から酒場で一体何を。
北条は意味が解らず目を白黒させる。

「ワシは頼まれただけだ。
 ほら、さっさと行ってこい」

谷に急かされ、背中を押されて
渋々北条はCORNER LOUNGEへ向かった。

* * * * * *

西部署内刑事部屋。

松田は愛用のマグナムを入念に手入れしている。
源田はと云うと、
大門から駄目出しを喰らった報告書の書き直しだ。
平尾の姿は無い。
係長の小言を避けて逃げ出したか、
所内の婦警に声を掛けに行ったかのどちらかだろう。

大門は静かに煙草を燻らせ
これまでの経過を見直していた。

塩野組の動きが何を意味しているのか、
それを見つけ出す為に。

「…」
ふと咲樹の事が気になった。

今は鳩村と組ませてはいるが、
いずれは他の連中とも組ませるつもりでいる。
北条は反発しないだろうか。
それがかなり気掛りであった。

「…ふぅ」
本日何度目かの溜息がふと口を吐いて出た。

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