| [65] M-X |
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特殊車を念入りに洗っていると ふと気配を感じた。 「…咲樹さん」 其処に立っていたのは咲樹だった。 泣き出しそうな笑みを浮かべ、 黙って何かを差し出す。 それは北条の『警察手帳』。 「コレが無いと、不便でしょ?」 「……」 「…じゃあ」 「待ってくれっ!」 思わずその手を掴んでいた。 泡まみれで汚れた手だったが 咲樹は嫌悪感を表さなかった。 「あ…あの……」 「?」 北条は汚れた手で 鼻の頭を掻いてしまっていた。 「コイツ…M-Xって言うんだけど。 俺の弟みたいな奴で。 その……」 「…?」 「コイツの洗車終わったら、 …一緒にパトロール出ないか?」 「M-Xで?」 「…あぁ」 「…うん。じゃあ団長に報告してくる」 咲樹は笑顔だった。 先程とは違う、優しい笑み。 其処に涙は無い。 後姿を見送り、 北条は本格的に洗車を再開させた。 「…今有る特殊車は 皆コイツの後輩なんだ」 自慢げにM-Xの事を語る北条。 その目は少年の様に輝いている。 「俺なんか下っ端だったから なかなかコイツに乗れなくてさ」 「今でもじゃない」 「そりゃそうだけど… 西部署在籍は長いだろ?」 「在籍、はね」 「…厳しいなぁ」 当時は憧れの存在だったM-X。 だが、時代は流れ 新たな特殊車が誕生すると 自ずとその仕事は減っていった。 それで良いのかも知れない。 何処かで自分を納得させながら、 それでも北条は何故か寂しさを隠せないでいた。 「もし俺が刑事を辞めたら…」 不意に彼は口にした。 「誰がコイツの面倒見てくれるんだろう?」 「…ジョー」 「取り返しの付かない事… しでかす所だった」 北条は後悔している。 刑事を辞めようとした事に。 それでも彼は自分の意思で戻ってきた。 「…貴方が今此処に居る。 大切なのは、それじゃない?」 「えっ?」 「過去は変わらない。 でも…貴方は逃げなかった。 それが一番大切なんじゃない?」 「咲樹さん……」 「ジョー…」 咲樹はそっと自分の手を彼の手に添えた。 「戻ってきてくれて… 有り難う……」 「咲樹さん……」 「…嬉しかった。 貴方が、戻ってきてくれた事」 こんな風に言われるとは思っていなかった。 『勝手な事を』 そう言って叱咤されると思っていた。 だからこそ北条は どうして良いか解らず、 言葉を詰まらせてしまった。 「…何も、言わなくて良いから」 咲樹には解ったのだろう。 彼女は添えていた手を放し 視線を外に移した。 「…有り難う」 北条はそっと呟いた。 聞こえるか聞こえないか位の 小さな声ではあったが。 |