[75] それぞれの思い

その日を境に。
北条は刑事部屋に近寄らなくなっていた。

何としても犯人を逮捕する。
その為の情報を得ようと
日夜聞き込みに向かっていたのだ。

「…今度はアイツが倒れるぞ?」
鳩村は見てられないとばかりに
溜息を吐いた。

「…咲樹に、
 『捜査から降りろ』って
 言ったみたいだな……」
沖田は静かに呟く。

「…オキ」
「憎まれ役なら
 俺が幾らでも代わってやったのに」
「オキさん…」

「アイツの役じゃないだろう…?」
「…過ぎた事だ、オキ」
鳩村は沖田の肩を
軽く叩いた。

「…俺達じゃ、
 多分…駄目だったろうさ」
「ハト…?」

「これは『試練』なんだよ。
 姫やジョーだけじゃない。
 俺達『大門軍団』全員が
 試されてるんだ。
 きっと、な…」

「試練…か」
平尾は静かに眼鏡を直し、
遠くを見つめた。

「…団結力って、
 目に見えない物だけど…。
 だからこそ
 困難に打ち勝った時の喜び、
 大きいよね」
「…あぁ」

「姫が敵を取るチャンスそのものは
 消えた訳じゃない。
 ジョーが駆け回ってるのも
 姫の手柄を準備する為だろう?」
「…ハトさん」

「アイツ、ほら…実直だから。
 言わなくても判るんだよ」
「…その思いが
 咲樹に通じてれば良いな」

「姫なら大丈夫さ。
 今は興奮してるだろうが
 冷静になれば必ず解る。
 …リキさんが太鼓判を押した女だもんな」

ふと松田の名前が口をついた。

「…大丈夫、ハトさん。
 リキさんも応援してくれてるって!」

平尾の返答に
鳩村は嬉しそうに頷いた。
沖田もまた、笑顔で答えている。

「じゃあ我々も
 ジョー君に負けないよう、
 聞き込みを始めますか!」

3人はそれぞれ力強く頷くと
情報を求め、散開した。

* * * * * *

「そうですか…」
大門と浜は
木暮の居る課長室に呼ばれていた。

「ジョーの奴が…」
「私としては…
 一番『避けたかった』パターンだったが…」
木暮の声も重い。

彼女の『夢』を知る者にとって
確かに今は最悪の状況だろう。

「…自分は、信じています。
 ジョーが残した切っ掛けを
 必ず咲樹は受け取ってくれると」
「大さん…」
「…団長」

「彼女の決意は
 そんなに軽い物では有りません。
 ジョーもそれを承知していたからこそ、
 今回の役を買って出た筈です。
 自分は…咲樹を信じています」
大門の声に迷いは無かった。

部下を信じている。
その一念のみだ。

「…団長に教えられたな、今回は」
木暮は苦笑を浮かべ、
浜の賛同を得ようとウィンクする。

「そうですな…」
浜もまた、苦笑を浮かべていた。

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SITE UP・2006.09.01 ©森本 樹

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