年中無休

「こんのクソ忙しい時に銀行強盗なんてやるなよな!」
大将の罵声が寒い冬空の下で木霊する。
「大将、少し黙ってて下さい」
「五月蠅い、ジュン!
 テメェに説教される筋合いはねぇ!」
「はいはいどっちも騒がない。
 犯人が興奮しちゃうでしょ?」
一兵は拳銃を構えながら喧嘩の仲裁までこなしている。

「団長、中の様子がこれじゃ判りませんね」
「自分が突っ込みましょうか?」
「待て、ジョー。長さん、其方はどうですか?」
「いや…よく見えませんな。
 強行突破は止めた方が良い」

団長はふと昔の事を思い出した。
課長と初めて会った時の事を。

『そうか。あの方法なら…』

「全員、撤退せよ!」
団長は迷う事無く部下に告げた。
「へっ?」
「嘘…」
「撤退だってさ」

「まだ犯人中に居るんすよ?」
「団長の指示は絶対だ」
「その通り」

それぞれが多様な反応を示すが
団長の指示通り一時撤退する。
取り囲む警察の姿が見えなくなり
焦ったのは犯人の方だった。

そう。
あの時と同じ様に。

団長はハトと共に遠方からライフルを構える。
他のメンツは長さんの合図で
犯人の確保と人質救出をする手筈だ。

思惑通り、不審に思った犯人が誘き出される。
一人、二人…そして人質を取った最後の一人。

ライフルが唸る。
部下の二人が立て続けに倒れた。
その一瞬の隙を付いて。
「行け!」
長さんの合図で他のメンバーが一斉に飛びかかる。

長期戦を予感させた捕り物劇は
こうして短時間で幕を閉じたのである。

* * * * * *

「いやいや見事見事!」
係長は嬉しそうに団長の肩を叩く。

「大晦日の大変な時期に
 銀行強盗をスピード逮捕!
 私も鼻が高いよ!」
「自分は何もしてねぇクセに…」
「言うな、大将」
軽く腰を叩き、ハトが微笑む。

「でも見事でしたね、団長のアイデア」
ジュンが上機嫌で話に加わる。
やや興奮した面持ちだ。
「追えば去る。ならば追わずに待つ…。
 兵法だねぇ…」
「ヘイホウ? おやっさん、何すか それ?」
「馬っ鹿だね、ジョー。兵法も知らないの?」
「じゃあ一兵さんは知ってるんすか?
 俺にも解るように説明して下さいよ」
「え〜っとね、それは…」
説明が長くなりそうなので一兵は端折った。

「元のアイデアは課長ですよ。
 …今はお出掛け中のね」
団長はウインクをして見せる。

『セブン』で呑んでいた課長は思わずクシャミをした。
「あらグレ、風邪?」
「…う〜ん、誰かが噂してたのかな?」

* * * * * *

団長、長さん、係長が帰った後
若者共は一寸した忘年会代わり。
アルコール抜きで騒ぐ刑事達。
これで電話さえ掛ってこなければ
平穏無事な新年を迎えられる…筈だったが。

ジリリ〜ン

「掛かって来ちゃったよ」
「ジュン、電話取れ!」
「人使い荒いんだから、大将は…」

ブツブツ文句を言いながら
ジュンは大人しく電話を取る。
「はい、西部署です…」
「…何て?」

直ぐに電話を切ったジュンにハトが問う。

「間違い電話」
「掛けてくんじゃねぇよ、んなモン!」
呑んでもいないのに大将は出来上がっている。

「つまんねぇの…。おい、一兵。
 其処の寝てる奴、叩き起こせ」
「大将、寝させときましょうよ。
 アイツ寝起き最悪だから…」
「ジョー、お〜き〜ろ〜〜!!」
「…五月蠅い!」

ソファで横になっていたジョーは
回し蹴りをかまそうとして床に転落した。
そのまま、まだ眠っている。

「…大した根性だ」
変な所で大将は感心している。
やってられないとばかりに
ハトは珈琲を口に含んだ。

* * * * * *

ジリリ〜ン

除夜の鐘と共に電話が響き、年が明けた。

これでもう新年何度目かの電話だ。

「また悪戯電話とか間違い電話の類じゃないでしょうねぇ〜。
 警察だって暇じゃないんだから」
一兵が文句を垂れてる隣で
ジュンが素早く受話器を取る。
「はい、西部署です…」

「今度は何て?」
「近所の公園で喧嘩だそうです」
「派出所に掛けろよ、んなモン」
「そうはいきませんよ」
「何で?」
大将は意味が解らずキョトンとしている。
「だって…ヤクザの喧嘩ですから」
「そう言う事は早く言えっ!
 このスカタンっ!!」

まだ床で寝ているジョーを蹴り飛ばし、
大将は怒鳴る。
「何時まで寝てんだ、こら!
 起きろ、事件だっ!!」
「はぁ〜?」
「起きろったら起きろ!」

目を擦りながらゆっくりと起きるジョーを更に蹴り飛ばし、
大将が仕切りまくる。
「団長と長さんに至急連絡!」

「…アイツ、目がイキイキしてない?」
そっと一兵に耳打ちするハト。
「本当…」
一兵もクスッと笑みをこぼす。

西部署に大晦日も正月も無い。
初日の出をバックに
刑事達は現場へ急行した。

web拍手 by FC2



SITE UP・2004.12.31 ©森本 樹

【ハキダメ書庫}目次