泣きたくなる瞬間

目の前に居た被害者を守れなかった。

係長の罵声を受けながら
直立不動のまま、
五代は歯を食い縛っていた。

「…純?」
「失礼します…」
軽く会釈し、刑事部屋を後にする。

その後姿を見ながら
平尾は眼鏡の縁を上げた。

* * * * * *

「やぁ、此処だったか」
「一兵さん…」
「多分此処だと思って」
駐車場で五代は空を見上げていた。
僅かだが目が赤い。

「…あのさぁ」
「はい?」
「何もかも、自分の所為にするの止めなよ。
 純は西部署配属されて間も無いんだし、
 今回の事件は誰であっても防げなかったよ」
「でも…でも、俺……」

「…なぁ、純?」
平尾は顔を青空に向けたまま呟いた。

「我慢しないでさぁ、
 …泣いちゃえよ。
 そうしてスッキリして、
 ホシを捕まえようや」
「一兵さん…」
「泣く事は恥ずかしくないよ。
 だから…クヨクヨするよりも
 思い切り泣いた方が良い」

「一兵さんも、泣く時有るんですか」
「そりゃあるよ。
 …人間だもん」
その一言が五代の心に響いた。
涙が溢れてくる。

声が枯れる迄泣いた。
平尾はずっと傍に居てくれた。
優しく、時折肩を叩き、背中を撫でながら。

* * * * * *

「スッキリした?」
「はい…。吹っ切れました」
「よし、じゃあ…」
「はい! 早急にホシを上げましょう!」
「そう来なくっちゃ!」
二人は肩を並べ、刑事部屋へ急ぐ。

そんな二人の後姿を
これまた心配していた他の面子が見つめている。

「良い兄貴じゃないの、平尾君」
「少なくてもお前よりはな」
「酷い! 傷付くなぁ〜、鳩村君ったら」
「はいはい。莫迦やってないで。
 行きますよ」
「ジョー、お前何時から仕切り屋に…?」
「行くか」
「おい、ハトまで!」

夕焼けが西部署を包む。
そして、刑事達の夜が始まる。
捜査に赴く為に…。

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SITE UP・2005.9.26 ©森本 樹

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