Vorwort・1

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

神代の時代、まだ人間が居なかった時代。
光と闇が生まれ…繁栄していた時代。
光一族には【八剣士】と呼ばれる戦士達が居た。

彼等は定めの下に生まれし者達。
時代を超え、転生を繰り返し、
彼等は三度再会する。

この時代で、この場所で。
彼等の受けし、【定め】とは…?

* * * * * *

それはいつもの通学時間。
いつもの変わらぬ時間。

辻谷 葵(つじや あおい)はいつも乗っている電車を
先頭の位置で待っていた。
いつもの朝…の筈だった。

「?」

不意に背中を押された。
電車が間も無く来ると云う瞬間だった。

『あ……』

何が起こったのか判らない。
脳裏に恐怖が過ぎる。

しかし、彼女の体は何者かに抱き止められていた。
線路に落ちる事無く
電車はいつも通りきっちりと駅に停車した。

「?」
「大丈夫か?」

若い男の声。
逞しい右腕が彼女を支えている。

「は…はい……」

ゆっくり振り返ると
自分より20cmは背の高い
逞しい男が立っていた。

目立つのは額の傷。
額から鼻に掛けて
切り傷の痕だろうか、が残っている。

「あ、有り難う御座いました!」
「大した事じゃない。
 それよりも乗り遅れるぞ」

男は閉まり掛けたドアを押さえ、
彼女を電車へと促す。

「は、はい…」
「じゃあな」

男は静かに去って行った。

「…誰だったんだろう。
 ちゃんとお礼、言えなかった」

葵は去り行く男の背中を
ジッと見送っていた。

* * * * * *

深い色のサングラスをかけた青年が
何かの資料を読んでいる。
真っ白な紙の上に羅列する点。
指で彼は資料を『読んで』いる。

「…この業種に関しては問題無しか。
 だがこっちはなかなか厳しそうだな」

青年はふっと溜息を吐くと机から離れた。 大きく伸びをし、休憩を取る。
鹿嶋 瑠摩(ろくしま りょうま)。
鹿嶋財閥の二男。【深窓の令息】と呼ばれる人物である。

「美味い珈琲が飲みたくなった…」
「瑠摩様」
「誠希か」 「そろそろだと思って
 珈琲お持ちしましたよ」
「気が利くね。有り難う…」
「いえ、大した事じゃ有りませんよ」
「誠希の淹れてくれる珈琲が一番美味いんだ」
「それは光栄です。
 でもシェフが泣きますよ」
「彼には他で頑張ってもらってるさ」
「それもそうですね」

瑠摩の元に現れたこの青年は橘 誠希(たちばな まさき)。
彼の執事 兼 ボディガードである。

二人は暫し談笑していた。
他愛の無い会話が続くが
それが何よりも心地良い時間だった。
激務から開放される瞬間。
誠希と呼ばれた青年に
瑠摩は色んな事を話し掛けていた。

「彼奴はもう、動いたのか?」
「えぇ。【彼】の情報では
 もう接触したようです」
「彼奴もなぁ…。
 此方に連絡を寄越してくれたら
 楽なんだが……」

瑠摩は思わず溜息を吐いた。
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