Vorwort・2

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

抱き締めた体は細く、
手折ってしまいそうで恐る恐る触れていた。
眩しい微笑を自分に向けてくれる優しい女性。
この女の為なら自分は戦える。

「エリオス…」

耳元で囁かれるその声が自分の生きる証。
そう、彼女と出会う為に
それだけの為に自分は生まれてきたのだ。

「セルバール…俺は……」

夢は、其処で途切れた。

* * * * * *

嶺崎 江淋(みねざき こうり)は暗闇の部屋で目を覚ました。

何も言わずカーテンを開け、
月明かりを頼りに
煙草を取り出し、咥える。

「…神代の夢、か」

それが自分の前世だと気付いたのは
遥か昔の事。
胸に輝く銀色の【義】の痣。
それが自分の正体を
何よりも証明していた。

「【光源八剣士】……」

好きで戦士として生まれて来た訳ではない。
だが、周囲はそう見てはくれない。

そう…自分の所為で両親は殺された。
自分の為に兄は攫われた。
自分の所為で…運命が狂った。
彼がまだ5歳の頃である。

突然何者かに襲撃され、
彼は瀕死の重傷を負いながらも
一人生き延びた。
その時に受けた傷が
今も額にクッキリと残っている。

「俺のこの力は…敵討ちの為に使う。
 【光源八剣士】の存在なんて
 俺には関係無い」

夢で見た女性の姿が脳裏に浮かぶ。
昨日出会った女学生とダブる。

「あの子は…」

江淋は思わず呟いていた。
胸の奥が熱い。

「…そうなのか?
 エリオス、彼女が…?」

自分の中に宿るエリオスの魂に
江淋は思わず語り掛けていた。

「あの子が…セルバールの……?」

激しい動揺。
生まれて初めての経験に
江淋は戸惑っていた。

* * * * * *

イギリス。

O大学の教室で
天寺 聖(あまでら ひじり)は教鞭を執っていた。

彼の担当教科は
【古代日本神話】である。
生徒の評判も良く、
彼の講義には立ち見も出る程だ。

「じゃあ、今日は此処迄」

流暢な英語でそう言うと、
聖は笑顔を浮かべ、教室を後にした。

誰も彼の右手に輝く
【智】の痣に気付かない。

そう、これは特別な痣。
特定の人間しか見る事の出来ない
痣なのだと…
行方不明になった
自分の祖父から聞いた事がある。

「【光源八剣士】…か」

【光源八剣士】

その存在を研究していた祖父が
自分を置いて行方を晦ましたのは
彼是5年以上経つだろうか。

事件か事故か。

聖は何が動いたのかを察知していた。
だが、祖父の遺言にも近い言葉を
彼は忠実に守っている。

『あと7人だ。
 7人の同志を見付けるんだ。
 それまでは挑むんじゃない』

「…解ってるよ、祖父さん」

寂しげにそう呟き、
聖は窓に浮かぶ雲を見上げた。
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