爛れた若者と酔っ払いが行き交う雑踏。
こう云う場所は大抵『荒れる』と相場が決まっている。
酒が引き寄せるのか。それとも肉欲か。
玉虫色の欲情が織り成す愛憎劇は
この場所に居ればその土台を確認出来る。
つくづく人間とは【愚かな生き物】である、と。
「
「まぁこう云う時も有るさ」
「しかし兄ぃは選り取り見取りじゃないッスか!
何か、勿体無ぇなぁ…」
「俺から言わせれば
【ボン・キュッ・ボン】の濃度が足りないんだよ。
どうせ遊びなんだからそれ位の楽しみはな」
「…遊びなんだ」
「ナンパで婚活する莫迦が何所に居る?」
「居そうなもんですけどね」
フッと鼻で笑い、男は賑やかなネオン街に目をやった。
フリースのパーカーと濃い色のGパン。
そして一昔前に流行ったバスケットシューズ。
軽装が却ってガタイの良さを見事に表現している。
その隣に居る男もそれなりの筋肉質だ。
特徴的な丸刈りの頭が
この街ではやや異色に映っているが。
「
「はい」
「お前さ、帽子位被って来れば?
坊主頭丸出しってのも格好悪いぜ」
「…俺を坊主頭にしたのは兄ぃの所為でしょ」
「そうだっけ?」
「そうッスよ!
兄ぃが跡目継がないからこうして俺が…」
「俺はヤクザの組長候補じゃねぇよ。
【跡目】とか言うな、紛らわしい」
「…宮司だって似た様なもんでしょ?」
「まぁなぁ。親父の見た目はどう考えてもヤク…」
「? 兄ぃ?」
「しーっ」
「?」
男は自身の口の前に指を立てて牽制する。
何かを発見したのだ。
寿星も声を抑え、視点を路地裏に移した。
証明の無い暗闇の奥、何かが蠢く。
そして、聴こえてくる罵声。
「喧嘩…ッスかね? にしては雰囲気が変だ」
「絡まれてるのかもよ」
「こんな所で? 面倒臭ぇなぁ…って、兄ぃ?!」
「面白ぇ。一寸顔出してくる」
「兄ぃの悪い癖が始まった…」
男の表情は明るく、寧ろ楽しげだ。
寿星は半ば諦めた面持ちで
男の後に随って路地裏へと進んだ。
視界も痛みも
既に何処かへ行ってしまったかの様だ。
耳の聞こえも悪くなってきている。
着物をグイッと引っ張られた様だが
布の裂ける音が遠くで聞こえた程度。
この着物も随分と古くから着ている物なので
そろそろ朽ち果てても可笑しくは無いだろう。
何所かで、そんな他人事の様に捉えている。
目の前の黒い物体、正確には黒服だが
先程から同じ論調の繰り返しだ。
好い加減、返答するのも煩わしくなった。
早く終わってくれないだろうか。
頭の中では、そんな言葉が出てくる始末。
何時になれば解放されるのだろうか、と
期待を持てずに殴られ続ける、そんな矢先だった。