俺は彼女を殺さなくて済んだかもしれない。
鳴神の言う通り、俺には向いて無かったのかもしれない。
退魔師に成らなければ、彼を…
十六夜を、あんな形で喪わずに済んだのかもしれない…。
「取り敢えず、進捗情報はこんな感じ」
「へいへい、どうも…」
乾月より手渡された分厚い資料に適当な視線を送りながら
鳴神は素っ気無い返事を返した。
「まさかノーギャラだと思ってるんじゃないでしょうね。
ちゃんと弾みますよ。
これは私からの正式な【依頼】なんだから」
「そんな事ぁ心配してねぇよ」
「じゃあ何が心配?」
「何だろうね」
「朔耶の事?」
不意を突かれたのか。鳴神は盛大に珈琲を吹き出した。
「昔から思ってたけど、本当に天邪鬼だね…」
「師匠は昔から本当に性格捻くれてるよな」
「褒めてくれてありがとう」
「…で、朔耶が何て?」
「いやぁ~、相変わらずどん底状態だそうで」
「放っておけば?」
「戦力が減るでしょ。嫌でも戦ってもらわないと」
「師匠…。戦力が減るってより
六条のターゲットは【朔耶】なんだろ?
理由は知らねぇけどさ」
「理由らしき物は其処にも書いてあるから」
「いまいち解らねぇんだよな。その【千年前】の話も」
ショートケーキにフォークを突き立て、鳴神は更に続ける。
「十六夜が【陰陽鏡】の力で生きていたのは納得出来る。
しかしその恩恵に与れない六条は何故だ?」
「私も其処が解らないんだよね。
【陰陽鏡】は六条を認めなかった。それだけは確かだ」
「六条の下僕がこの街で好き勝手やらかしてるのもなぁ…。
【魔】を自在に操る方法なんざ、聞いた事がねぇ」
「全ての謎は十六夜が握ったまま、だったか…」
「…珍しいね、師匠の溜息」
「そう?」
「あぁ。朔耶が滅茶苦茶落ち込んで、荒れたあの時期以来」
「あの時も色々と大変だったからね…。
寿星と出会ったのは、確かあの頃だったよね」
「そうみたいだな。俺も詳しくは知らないけど」
「あの時の寿星の様に、何か切っ掛けが有れば
朔耶も浮上して来るんだろうけど…」
「浮上する前に消されない事を祈るぜ。
彼奴、あれだけフラフラしててよく狙われないよな。
俺なんて油断したら直ぐに刺客が飛んで来るのに」
「十六夜が何か残したんじゃないの? 朔耶の為に」
「かもな。十六夜の奴だけは、こうなる事が解ってたんだし」
乾月は何も返答しなかった。
只一人、眉を顰めて何かを考えている様だった。