遺 恨

11. 再起(第弐幕)

此処には、俺の【罪】が眠っている。

昔はそれこそ毎日の様に足を運んだ場所。
いつからか、通わなくなっていた。
人間とは都合の良い生き物で
いつの間にか自分の犯した罪さえも忘れる。

「今更何しに来た、って言われるかもな…」

心ばかりの花を添え、線香を焚く。
墓石から静かに現れる姿。
まだ若い女性。冷めた視線が俺を突き刺す。
そりゃそうだ。
彼女が俺に悪意を持っててもおかしくは無い。
何故なら彼女を死なせたのは…殺してしまったのは
他でもない、『この俺だった』のだから。

* * * * * *

「朔耶! 一旦退くんだ!」
「何言ってんだよ、ヤスさん!
 今退いたら逃がしちまうだろ?!」
「だからってこのままでは被害が拡大する!
 一旦体勢を立て直してから…」
「この間もそう言って、
 鳴神の奴に手柄横取りされただろうがっ!!」

俺はヤスさんが止めるのも聞かずに
街中で【魔】と大乱闘を繰り返していた。
あの頃は手柄がとにかく欲しかった。
一日でも早く一人前と認められたかった。
その為には多少の無茶もお構いなしで
当時相棒だったヤスさんを散々振り回した。

「朔耶! 君、何の為に退魔師になったんだよ!
 鳴神君と張り合う為じゃないだろうっ?!
 とにかく、結界を張り終わる迄は攻撃するな!!」

ヤスさんは俺を止めながら懸命に結界を張ろうとするが
元々普通のサラリーマンから退魔師に転職した人だ。
そんな神業の芸当が熟せる筈も無かった。
待ち切れない俺は制止を振り切り、【魔】に対して
俺が最も得意とする炎の弾丸を放った。

だが、弾丸は【魔】を擦り抜け
あろう事かその背後に居た一般人に直撃する。

「?!!」

弾丸は歩いていた一人の女性の胸を貫いていた。
俺の術は【魔】では無く
何の落ち度もない女性の生命を一瞬で奪ったのだ。

「あっ……」
「朔耶! 朔耶、確りしろっ!!」

俺の目は倒れ逝く女性しか捉えておらず、
ヤスさんの叫びも耳には届いていなかった。
反撃に転じた【魔】の攻撃に気付いたのは
その鉤爪が目の前に迫った瞬間だった。

「朔耶っ!!」
「!!」
「邪魔だ、どけっ!」

その声と同時に体が後方へ大きく弾き飛ばされた。
誰かが俺と【魔】の間に入ったのだ。
ヤスさんは慌てて俺の元に駆け寄り、助け起こしてくれた。

「ヤスさん…」
「大丈夫かい、朔耶?」

虚ろな目で先程の場所を見ると
其処に立っていたのは鳴神だった。
呆れた表情を浮かべ、此方を見返している。

「鳴神君が助けてくれたんだよ」
「……」
「助けた訳じゃねぇ。【魔】を退治しただけだ」

鳴神は立ち去り際にボソッとこう呟いた。

「お前、退魔師向いてねぇよ。辞めれば?」
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