写 真

11. 再起(第弐幕)

帰り道、朔耶は友人に預けたままにしていた
例のフィルムを受け取りに立ち寄った。
仕事仲間であるそのカメラマンは
フィルムと共に1枚の写真を朔耶に渡した。

「凄く…良い写真だったからさ。
 最高の状態で現像したかったんだよ。
 お前にも『好きにして良い』って言われてたし」

一面の桜の中で微笑んでいる一人の男。
あの日以来、見る事も叶わなかった優しい笑顔。
幻などでは無く、彼は確かに存在していた。

「十六夜……」
「フィルムの中に取り残されたままじゃ
 余りにも気の毒に思えてさ。
 まぁ、勝手な事したのは詫びるよ」
「いや…ありがとう。最高の出来だ…。
 お前に預けておいて正解だったよ」

朔耶はそう言って微笑んだ。
目元に涙の感触は有ったが、気にならなかった。

「ただいま、十六夜…。
 長い間留守にして済まなかった…」

* * * * * *

家に着く迄の間、何度も写真を見つめていた朔耶は
公園に立ち寄り、ベンチに座る事にした。
落ち着いて写真を見てみたくなったのだ。
どうしても何かが気になって仕方が無かった。

「…十六夜」

一見、十六夜は微笑んでいる様に見える。
実際に微笑んではいるのだが、何か違和感が有った。

「この表情……」

朔耶は漸く合点が行った。
十六夜が常に感じていた【別れ】と【覚悟】が
彼の眼差しに色濃く反映していたのである。

「彼奴は…戦い続けていたんだ。
 どんな時でも、常に一人で…孤独に……。
 俺達を六条から護る為にどうすべきか…
 彼奴はいつも悩み、苦しんでいた……」

今更、と思いつつも悔しかった。
最も近くに居ながら、全く気付いてやれなかった。
傷付き、倒れても尚、彼は戦う事を止めなかった。
それは唯 朔耶を、仲間達を護りたいと云う一念から。

「彼奴が独りで護り抜いてくれたんだ…。
 俺は、その遺志をちゃんと継がないとな。
 逃げてたって、十六夜は浮かばれねぇ…」

彼の形見となった数珠にそっと手を触れながら
朔耶は歯を食いしばった。
色んな思いが波の様に襲い掛かって来る。

「十六夜…。漸く解った気がするよ。
 お前の孤独と覚悟を。
 お前がどれだけ、この街を愛していたかを。
 そして…俺達を想ってくれていたかを」

桜の花吹雪と共に消え去ったと思っていた炎が
今、自身の中で激しく燃え上がっている。

「まだ、終わっちゃいない。
 六条との決着、今度こそ俺自身が着けるんだ」

その志を受け継ぐのは自分である、と
朔耶は改めて写真の中の十六夜に誓うのだった。
Home Index ←Back Next→