挑戦状

5. 妖刀村雨(第壱幕)

「で、今回の仕事はこれだそうッス」

寿星が手にした資料に目を通し
朔耶は思い切り眉間に皺を寄せた。

「兄ぃ?」
「これ、俺達のスキルでクリア可能か?」
「…多分、無理ッスね。
 繊や神楽ちゃんに助太刀頼んでも厳しいとは思います」
「助太刀頼むつもりだったのかよ。
 てかお前、何故に神楽だけ【ちゃん】呼ばわり?」
「…突っ込まんで下さい」
「師匠、何の勝算が有ってこの件を俺達に振ったんだ?」
「さぁ?」

乾月が朔耶達に依頼した仕事内容は以下の通りだった。

『最近街で問題になっている
 切り裂き魔の事件について、真相を究明し速やかに解決させる事』

先ずは犯人の目処を立てなければいけないのだが
何の証拠も見付からないと云う奇妙さが際立った。
乾月からの仕事なのだから
通常、人間が起こした事件とは考えられない。

「切り口はどれも【鋭利な刃物】か」
「どうした?」
「あ、十六夜。今回の依頼だよ。切り裂き魔を捕まえろって奴」

寿星は資料の一部を十六夜に手渡す。
それを確認すると、やはり彼も朔耶と同様に顔を顰めた。

「やはり、俺達だけじゃ無理って事か」
「兄ぃ…」

十六夜から返答は無い。難しそうな表情のまま資料を読み耽る。

「…これは。やはりそう云う事か」
「十六夜?」
「朔耶。『【五本目】からの挑戦状』だ」
「えっ?!」

十六夜はそう言うと、資料を寿星に返す。表情はかなり険しい。

「お主の真価を問われる時が来た。そう、告げて有った筈じゃ」
「…成程。この事件は全てその五本目が起こしたって事か。
 つまり……」
「そう。【五本目の妖刀】に認められ、契約を交わさなければ解決せん」

遂にやって来たと云うべきか。
朔耶の目に見る見る力が篭る。やる気が満ちていく。

「じゃあ、早速街に繰り出して気配を探る所から始めないとな!」
「兄ぃ、やる気ですな!」
「勿論だ! じゃあ、行くぜ寿星!!」
「あいなっ!」

そのままの勢いで飛び出す朔耶と寿星を十六夜は心配そうに見送る。

「相も変わらず考え無しだこと。あの鉄砲玉、誰に似たのかね?」
「母上様…」

心配そうな十六夜の隣にはいつの間にか弓が立っていた。

「いつもこんな風に苦労掛けてる訳? あの莫迦バカ息子は」
「ば……」
「優しいんだね、アンタって子は」

弓の表情は変わらない。
穏やかに十六夜を見つめているだけだ。

「もう次の手を考えてるって顔をしてる。
 そう云う人間が傍に居ないと、
 朔は本当に無茶をする子だから心配」
「心配をされている様には見受けられませぬが…」
「慣れちゃったからかな?
 アイツだって、もう30歳を越えた大人だからね。
 自分で始末を付けられる様には育てたつもりさ」

弓の洞察力に十六夜は驚いた様だったが
やがてゆっくりと何度か同意の頷きを示した。
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