妖 刀

5. 妖刀村雨(第壱幕)

部屋で飲み物を口にしながら先程の話を振り返ってみる。

「しかし、誰が持ってるのかね? その四本目ってのは」
「お主がよく知る人物じゃよ」
「…?
 寿星、じゃないだろうし…。
 神楽もキャラじゃねぇし」

今度は十六夜から珍しく盛大な溜息が吐き出された。

「親父や叔父貴は才能ねぇし、お袋…は」
「お主は一体、『誰の』弟子じゃ?」

流石に耐え切れなくなった十六夜が思わず助け舟を出していた。

「え? 師匠? だってあの人、刀なんて持ってないぞ?」
「【妖刀】は謂わば【気の塊】じゃからな。
 その者が望む姿に化身けしんしておっても不思議では無い」
「ん? って事は…」
「これ以上は言わんぞ。乾月にとっては同時に弱点にもなりかねん」
「…解った。そう云う事か」

【妖刀】と契約すると云う事。その膨大な【気の塊】を所持する意味。
朔耶にも何となく【妖刀】を手にする事の重みを理解出来た様だった。

「だとすると、やはり鳴神が契約してるってのは
 どうも納得行かないんだよな…」
「鳴神の持つ【村正】が好戦的な性格なのじゃろう。
 そう考えれば似た者同士かもな」
「【村正】は暴れたいから鳴神を選んだ?」
「そう云う事になる」
「迷惑な話だ」
「全くじゃな」

十六夜は不意にスッと立ち上がると、
両掌を合わせ静かに集中を始めた。
やがて、合わせた部分から薄紫色の光が溢れ出す。
光はゆっくりと形成され、いつしか刀の形と化した。

「見たいと申しておったじゃろう」
「これが…【虎徹】?」
「そうじゃ」

改めて目にする。
質素な装飾だがそれ故に刀身の美しさが際立つ。
初めて目にした時の興奮が呼び起こされた。

「まるで鼓動を感じる様だ。
 鳴神の【村正】や繊の【陽炎丸】とは違う」
「…そうか」
「十六夜?」
「お主には感じ取れる物が有るのやも知れぬな」
「…どう云う意味だ?」
「何れ解る」
「そっか…」

十六夜の表情が重くなっている事に気付くと
朔耶もそれ以上の追求はしなかった。
聞いても恐らくは答えない。
それは今迄の付き合いからも充分理解出来た。

「【虎徹】がずっとお前の相棒だったんだよな」
「…寧ろ私を守って来てくれた様なものじゃ」
「そっか。頼もしいな」
「…そうじゃな」
「五本目の【妖刀】ってどんな奴かな?
 契約出来ればこの手に出来るんだろう?」
「契約出来れば、な」
「俺に出来ると思うか?」
「それを私に聞いてどうする?」
「お前にだから聞いてみたい」
「……」
「十六夜…」
「『契約出来る』と信じよ。先ずはそれからだ」

十六夜の言葉に朔耶は目一杯の笑顔を返した。
欲しかった言葉が、其処に有ったからこそ。
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