神楽は印を結び、精神統一を図っていた。
先程から繊は何も言わず、心配そうに様子を見ている。
異変を感じ取っていた。
これは妖刀【村雨】が出現した時の比では無い。
渦巻く憎悪と殺意。忍び寄る魔の手。
今迄の【魔】の出現もこの憎悪と殺意に導かれたとしたら…。
そして、その標的は……。
「っ! 神楽っ!!」
集中が途切れたのだろう。
大量の汗をかきながら、神楽の体がグラッと後方に崩れ落ちた。
慌てて彼女の体を抱きかかえ、繊が顔を覗き込む。
「…大丈夫ですわ、繊。ありがとう……」
「見えたのかい? 【未来】が…」
「…はい。朧気ながらも」
「そうか…。やはり神楽のその【力】は
巫女だからこその物なんだろうね」
「繊……」
「アタシはまだまだ非力だ。【陽炎丸】を手にしたけど。
まだ、まだ神楽を護るには足りない……」
「繊…」
「神楽は普通の巫女じゃない。解ってる。
だからこそ、アタシは神楽を護りたい」
「それは…【巫女】として、ですか?」
「それもある。だけどアタシが護りたいのは神楽なんだ。
他の奴がその力を持ってたとしても、アタシは多分戦わない。
アタシが戦うのはアタシの巫女、神楽の為だけだ」
「繊…。ありがとう……」
「一緒に家を出た時に決めたろ。
アタシの存在は神楽に捧げたって」
「…えぇ」
「神楽は嫌がるかも知れない。でも…」
繊は笑っている。その笑みは何処か朔耶に似ていた。
朔耶の眩しいばかりに力強い笑みと。
「アタシの家が神楽の家系を護る為に、
【
アタシは誇りに思っている」
「繊…。でも、その為に貴女は……」
「アタシの父も、そして母も…きっと役目を誇りに思ってるよ。
誰かを護るのは正に【命懸け】なんだ。
力が足りなければ死ぬ事だってある。アタシの両親の様に」
「……っ」
「それでもアタシは戦うんだ。信じてるから」
「信じ、てる?」
「あぁ、信じてる。【祭巫女】の復活を。
アタシは神楽がその【祭巫女】だって信じてる」
「繊……」
「神楽の家の文献に残された、この国を護るとされる
【八乙女の祭巫女】の伝説。
昔は御伽噺の様に思ってたけど、でも今は信じてるよ」
「繊…。八乙女に伝わる【祭巫女】の伝承は断片的です。
もしかすると貴女が思ってくれる様な
存在では無いかも知れませんよ」
「それを確認する為にも、尚更アタシは強くならなきゃ」
「繊?」
「この目で確かめるんだ。神楽と共に。【祭巫女】の真実を」
繊の目に寸分の迷いも無い。随分と逞しくなった。
一段と戦士として成長している彼女を神楽は頼もしく感じていた。