夢に迄見た温もりを貪る様に十六夜は肌を重ねてくる。
予想だにしない積極的な態度に面食らったのは朔耶の方だった。
「い、十六夜?」
「何じゃ?」
「お前、その……」
「私とて無駄に長く生きておる。知らぬ訳じゃない」
『知っている』、この場合はつまり『経験が有る』と云う事。
少し自分の心が痛むのを朔耶は感じていた。
「あ…そう、ですか……」
「ん?」
「いや、実はな。
お前がこう云う事をするのは俺が初めてだと思ってたんだよ」
「朔耶……」
「なのに…何処ぞの馬の骨がお前に触れてたかと思うと、な……」
クスッと笑みが朔耶の身体の下の方から漏れた。
十六夜が吹き出したのだ。
そのまま自身の両手で優しく朔耶の両頬を包み込む。
「これが…初めてで良いではないか」
「十六夜……」
「これが私にとっての【初めて】じゃ」
「十六夜、お前…」
「宣言したからな、朔耶。お主こそが私の【初めての相手】ぞ」
「…ありがとう、十六夜」
やはり十六夜は【男】なんだな、と朔耶は強く感じた。
このどうしようもない独占欲でさえ、彼は笑顔で理解し受け止める。
出逢った当時、強く感じた十六夜の背中の大きさは
そのまま彼の【包容力】だったのだと確信出来た。
だからこそ余計に今は強く思える。十六夜の様な男に成りたいと。
そして他ならぬ十六夜を護りたい、と。
長く時間を掛ける愛撫が、何よりも今の朔耶の十六夜への答えである。
大切に、大切に。
自身に暗示を掛けながら、秘められた宝箱をゆっくりと開いていった。
目の前に居る人物がどちらなのか、判断に窮してきた。
朔耶、さくや…。それは間違いない。
だが、一体どちらの朔耶なのだ? 蓮杖? それとも…?
嗚呼…この肌の感触、温かさ。幾年ぶりに味わった事か。
たった一度、たった一度だけの交わり。
それを忘れられず、今迄 生き恥を晒してきた私。
こうして又 彼の者の温もりに触れられるとは思ってもみなかった。
これは夢、幻なのだろうか? 本当に現実なのか?
恐れの無い力強い腕の動きが、今の時間を実感させる。
これは現実。幻では無い。だが、過去の…彼の者の腕では無い。
やはり彼の者は死んだのだ。私の目の前で、確かに。
幾年月を超え、彷徨い続け、漸く巡り逢った
この男を…蓮杖 朔耶を私は心から愛し、護ると誓ったのだ。
その為にこうして身を委ねたと云うのに…
私は未だに彼の者を…私の所為で死んでしまったあの男を、
【
未練がましく、浅ましく……。