罪と罰

8. 葛藤(第壱幕)

いつの間にか眠っていた様だ。
薄らと瞼にかかる朝陽と鳥の囀り。
隣では満足そうに眠る朔耶。

そうか…。終わったのだな。

そのままの体勢で私は天井を見つめる。
平 朔耶と結ばれた時も、こんな風に空を見上げた。
薄暗い森の中、それでも私には光輝いて見えた。

「…朔耶」

私は、どうする事も出来なかった。
目の前で真っ二つに斬り裂かれた彼の者の体に縋り付き
泣き叫ぶ事しか出来なかったのだ。
敵を討つ事も叶わなかった。朔耶の後を追う事も出来なかった。
私の中で、全てが終わった瞬間だった。

「……」

悲しみはいつしか私を変えていった。
人と触れ合う事に脅え、生命が消え逝く様を呪いさえした。
それでも人は私の持つ【力】を求め、行使しようとする。
ひたすら逃げ続け、それでも捕まり、暴行を受け、でも拒絶し…。
街に降りて来てからはずっとそれの繰り返し。
終わりの無い罰の世界。平 朔耶を救えなかった私の罰……。

* * * * * *

もう良いんじゃないのかね

流れ込む十六夜の心の声に耐え切れなくなったのだろう。
朔耶を起こさない様に気を配りながら、【村雨】が声を掛ける。

お前さんはもう充分苦しんで来たじゃないか。
 平 朔耶だって、お前さんの事を恨んだりはしてないって

「そうじゃない…。そうじゃないんだ……」

「私は、私が許せない…。愛する朔耶よりも使命を重視した。
 あの時の私が今も許せないだけだ……」
でも現にお前さんしか居ないんだぜ?
 【陰陽鏡】を行使してこの都を死守出来るのは

「今の私にこの【陰陽鏡】は行使出来ぬ」
どう云う事だよ?
「この【陰陽鏡】は陰と陽が交わってしまっている。
 私の属性は【陰】だ。私では【陽】の力を行使出来ない」
それって…最悪じゃないのか?
 作り出した奴は何を考えてやがったんだ?

「…それでも、何時かは戦わなければならないだろう」

十六夜は眠っている朔耶の顔をそっと見つめた。
何とも言えず、慈愛に満ちた優しい微笑だった。

「ありがとう、朔耶。お主と逢えて、私も覚悟を決める事が出来た」
やはり…その道を選ぶんだな
「あぁ……」
まぁ、お前さんらしい選択だよ

日本刀の姿を維持したままの【村雨】が少し笑った様な気がした。

朔耶も又、選択しなければならないな。
 それはお前さんでも止められない。解っているだろうが

「解っておる…。それが【蓮杖 朔耶】だと云う事も……」

どれ程それを拒もうとも、朔耶は自ら戦場に躍り出る。
十六夜には解っていた。
それが【蓮杖 朔耶】と云う男だと言う事を。
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