No. 025:白煙

散文 100のお題

「何か疲れてるって顔してる」

隣で煙草をくゆらせる男の横顔を見ながら
望央はそっと声を掛けた。

「慣れねぇ事はするもんじゃねぇわ」
「何かお仕事?」
「まぁね」

白煙が静かにゆっくりと天へと昇る。
この光景が昔から好きだ。
思えば、線香に馴染みがある家庭だけに
それは自然な事だったのかも知れない。

「永夏は?」
「今日はお出掛けですって」
「大丈夫なのか、彼奴アイツ
 一応言っておくが、襲撃されてたんだよな?」
「護衛を付けてるから、一応大丈夫」
「誰?」
「朔ちゃん」
「……逆に心配だわ」

弦耶は本当に父親 朔耶に容赦が無い。
信用していない訳では無いだろうが
辛辣な言葉が口から直ぐに飛び出る。

「でも、不思議と仲良しなのよね」
「誰と誰が?」
「…独り言よ」
「親父と永夏じゃねぇ事は理解した」

意味深に笑う弦耶の横顔を見つめながら
望央も釣られる様に微笑んでいた。
何よりも気持ちが落ち着く。
それを感じ取っている。

「弦」
「何?」
「偶には、その…」
「?」
「帰って来ても、良いからね」
「??」
「…独り言」
「あ…、そう」

素直じゃないと、自分でも思う。
本当はもっと、ずっと
傍に居て欲しいのに。

* * * * * *

男は静かに或る資料に目を通していた。
数日前、それは弦耶が手にしていた物。

(目を通したのは、此処迄か。
 だとすると、また……)

男は胸元から一枚の紙切れを取り出すと
それを資料に挟み込んだ。

(これで気付いてくれると良いが)

足早に席を立ち、資料を書庫へと戻す。
何者かの気配を感じる。
窓の外では一羽の烏が声無く鳴いている。

(解っている。潮時だな)

烏の方を一瞥すると
男はそのまま、まるで風の様に立ち去った。

* * * * * *

ドーーーーーン

地面を揺らす振動と轟音。
永夏はハッとして周囲を見渡す。
爆発したのは近場ではない。
自分が狙われた訳ではない様だ。
しかし。

「今日は此処迄だな」
「八乙女さん……」
「悪いな、永夏。緊急事態だ。
 お前の身の安全最優先と
 十六夜から言付かっているんでね」
「…はい」

この様な事態でも
朔耶はまるで動じていない。
そして、事情を知っているであろう
自分に対しても何も聞かない。

(この人は…凄ぇな……。
 あの人が言う様に、只者じゃねぇって事か)

永夏は黙って朔耶の横顔を見つめる。
その表情は不敵な笑みを浮かべている様でもあった。
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お題提供:泪品切。(管理人名:yue様)