物体と物体の間に働く力の事を
【万有引力】と呼ぶ訳です」
図書館で資料を漁っている時に
そんな会話が耳に届いた。
【引力】と云う単語に反応したのか。
弦耶は暫し資料となる歴史書に手を添えたまま
無言で虚空を見つめていた。
「…まるで望央の様だな」
誰に返事をした訳でも無く
弦耶はそう独り言ちた。
この時代、実に藤原姓の多い事。
それだけ
彼等が存在していた事を証明している。
「へぇ…。そんなに意識はしてなかったが」
弦耶は玄武帝の前時代の資料を読み耽っていた。
何故か、気になったのだ。
「この時代の左大臣は
右大臣は
で、陰陽寮に従事していたのが…
望央の
持参したノートに素早く何かを書き記す。
ふと、学生時代の頃を思い出し
弦耶は苦笑を漏らした。
「今の方が真面目に勉強してるみたいだ」
口元には確かに笑みが浮かんではいるが
彼の両目は真剣そのもの。
十六夜が告げた言葉の【真意】を
彼はこれ等の資料から読み取ろうとしている。
「長麻呂…か」
その名前を口にした瞬間
弦耶は背中に冷たい気配を感じた。
振り返るが、其処には誰も居ない。
(見張られていた? まさか…)
貸出厳禁の資料だけに持ち出す訳にもいかず
彼は必要な要点を素早くメモに書き記すと
丁寧に書庫へと返却した。
それより少し前。
「うん。…あぁ、此処には来ていない」
永夏は【
誰かからの着信を受けていた。
「俺は助かったから良いけど…
アンタは大丈夫なのか? その……」
電話先の相手を気にしている様だ。
次第に彼の表情が曇っていく。
「…無理、するなよ」
そうとしか、言えなかった。
やがて静かに通話は切れ、
永夏もその場から動く事無く
黙って木々の間から顔を覗かせる
冬の青空を見つめていた。