「そう」
望央はそれと目の前の人物を
何度も見つめ直している。
「弓ちゃん、良いの?
これ、相当な値打ち物なんでしょ?
宝石の輝きを見ているだけでも判るよ」
「だからこそ、さ」
弓はそう言って笑っている。
「弦耶から貰う迄は
ソイツを着けておきな。
多少は役に立つ筈さ」
「弦から…」
「白露ちゃんも、その方が喜ぶ」
朔耶の父親、
そして十六夜にとっては義理の父親。
白露が亡くなってから
4年の時が経っていた。
最期まで豪快で、そして家族愛に満ちていた。
そんな最愛の夫、白露から
プロポーズと共に渡された指輪。
弓はその指輪を望央に託したのだ。
「生前相続とか、そう言うのは止めてよ」
「はは、安心しな。
私はもう暫くお呼びが掛からないから」
「そうなの?」
「そうさ。
白露ちゃんだって多少は
羽を伸ばしたいだろうからね」
「あの世で?」
「そう。あの世で」
「そうかなぁ~?
弓ちゃんの事、大好きだったからさぁ。
白露爺ちゃん、寂しがらない?」
「あの世の時間の流れは
この世と全く違うからね。
1000年でさえもあっという間なのさ」
「よく聞くわね、その例え」
「そうだろう?」
「誰も経験した訳じゃないのに…
不思議だよね」
「あぁ。全くだよ」
光を受け、自らも輝いている様な
不思議な宝石に魅入られる。
弓の、そして白露の愛情が
光となって守ってくれている感じがする。
「ありがとう、弓ちゃん。
この指輪、大切にするね」
望央の言葉に
弓は満足げな笑みを浮かべ、頷いた。
「ジェット。この宝石が気になるの?」
甘える様に望央の指輪に体を摺り寄せる
弦耶の式神。
名前は望央がつけた。
「お前と同じ漆黒だな、ジェット」
「7月生まれの弓ちゃんに
白露爺ちゃんが贈ったんだって。
本当は8月の誕生石らしいけど」
「あと1日で8月だからな。
そんなに変わんねぇだろ」
「31日だもんね」
それに、と望央は弦耶に微笑む。
「オニキスの宝石言葉には
『夫婦の幸福』って意味があるらしいの」
「へぇ~」
「ロマンチストな爺ちゃんらしいわね」
「交際してる時に渡したのか、その指輪?」
「プロポーズの時に、だから…。
結婚を意識して、オニキスにしたのかも」
「だとしたら、時代を考慮しても
随分とハイカラな事で」
「白露爺ちゃんらしいよね」
「だな」
見つめ合い、微笑み合う恋人達を
ジェットはルビーの様な赤い瞳で
静かに眺めていた。