そう叫ばれ、胸を押された。
「でも…」
「良いから行け!
お前達だけでも生き残るんだっ!!」
言葉に背中を押され、
後ろ髪を引かれる思いで走り出す。
振り返ってはいけない。
そう心に刻みながら。
繋いだ手は暖かかった。
今この瞬間から、
彼女を守るのは自分だけの役目。
自分しか、もう残っては居ない。
「…」
彼女が耳元で自分の名を呼ぶ。
聞き取れない。
ノイズが邪魔で。
そして。
倉庫と呼ぶには余りにもみすぼらしい小屋で
彼女を異空間に旅立たせ
自分は…。
そこで目が覚めた。
最近妙にこの夢を見る。
然も段々生々しく。
夢の中の少女は美しかった。
御伽噺に出てくるような民族衣装を纏い、
誰からも愛された少女。
彼女の名は…。
「美雨(ミウ)…」
辛うじてそれだけは覚えている。
「朝か…」
重い体を起こし、
彼は身支度を始めた。
「あれ、珍しく早起きじゃん」
妹の昭美(アケミ)が不思議そうな顔で起こしに来た。
「俺だって偶には早起き位する」
「いつもだと助かるんだけどな。
私も母さんも」
「五月蝿い」
「ほら、丈(ジョウ)! 起きたのならご飯食べなさい」
母の声が一階から響く。
いつもの朝だ。
丈は漸く夢から覚めた気がした。
「顔、洗ってくる」
寝癖の付いた髪を掻き上げ、
彼は洗面所へと向かって行った。
「あれ?」
違和感に気付いたのは鏡と対面した時だった。
首に残る赤い痣。
彼の首を一周して残っている。
「何だ、この痣…?」
ふとあの時の夢が甦る。
自分の姿をした青年の最期は…。
「!!」
丈は全てを忘れるかの様に
激しく顔を洗い出した。
美雨という名の少女を助ける為。
その最期は、壮絶だった。
「夢だ…。所詮は夢なんだ…」
何度も丈は呟いた。
怖かった。
夢であって欲しいと、本気で願っていた。
何処かで【現実】を感じながらも。