Tesoro

最近、アタシに新しい能力が目覚めた…らしい。
サキュバスであるアタシには
本来不要な能力だと思うけど…。
折角だから、使っちゃおう。

それは、他人の意識に同調して過去を見る力。
見るだけじゃない。
過去に消えた人間の魂とリンクし
その人間の遺恨を吸収する事が出来る。

尤も、そんな不思議な能力の事なんて
アタシはこれっぽっちも知らなかったし
気付く事も無かったと思う。
あの女性ひと
教えてくれなかったら。

* * * * * *

薄暗い部屋の中で
その女性は椅子に座り、俯いていた。
顔色は悪い。
声を掛けるのも忍びないから
そのまま黙って彼女の背中を眺めていると。

「珍しいお客さんね」

彼女は不意に此方を向いて笑った。
一瞬だけ、誰かの顔と重なるけど
その人物が誰なのか、咄嗟に思い出せない。

「綺麗な翼を持っているのね」
「悪魔を怖がらないの?」
「悪魔よりも怖い存在を知ってるから」
「怖い存在?」
「人間、よ」

彼女は笑顔でそう言った。
人間でありながら、人間が怖い存在だと言う。
少し、莫迦にされてるんだろうか?

「そう云う意味じゃないわ」
「?! アタシの考えている事、解るの?」
「今、脳に流れて来たの。
 貴女が言わんとしている事。
 貴女の正体、そして…宝物」
「宝物?」

彼女の言葉に首を傾げる。
悪魔のアタシに宝物?
ピンと来ないけど…。

「近い未来に、必ず解るわ」
「宝物の正体が?」
「そう」

彼女は優しく微笑んだままだ。
椅子から微動だにせず。
只 笑みを浮かべ、アタシを静かに見つめている。

「お願いね」
「え?」
「貴女の宝物は、私の宝物でもある。
 誰よりも生き延びて欲しい
 尊い生命」
「??」

いずれ判る、と彼女は言った。
焦らなくても良い、と。

「名前、何て言うの?」
「私の?」
「人間には有るんでしょ? 名前」
「そうね、私の名前は……」

風の音が彼女の声を遮る。
意地悪だこと。
そんなもので悪魔の耳を誤魔化せるもんか。

「…覚えておくわ、アンタの名前」
「ありがとう」

彼女の姿がゆっくりと空気に溶けて消えていく。
やがて薄暗い部屋には
彼女が座っていた椅子だけが残った。

* * * * * *

「アタシの、宝物は…」

不思議な力、ではない。
成長する事により、
悪魔は己を進化させる事が出来る。
アタシの力の発現もその一環だろう。
彼女の思考を読み取り、
それは理解出来た。

「…ふふ」

アタシの宝物。
ううん、アタシ達の宝物。
それは…。
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