versteckte Wahrheit

「好きだ」

誰も居ない墓地。
花を手向け、海は微笑んだ。

「ずっと…好きだったんだ」

それはユウの墓。
外人墓地にひっそりと佇む小さな墓。
彼女らしいと、思った。

* * * * * *

彼女が残り幾ばくも無い命だった事実は
復讐を遂げたその日に知った。

「彼女はね、病人としての死では無く
 『掃除人』としての死を選んだ。
 ただ、それだけなんだよ」
 
Tは静かにそう言い残した。

ボブも竜兵も知っていた。
海だけに伏せられた事実だった。

「…だよな」

小さく、呟く。

「でなきゃあんな外道に彼女が…」

後は声にならなかった。

潔い死だったのか。
それとも惨めだったのか。
もう、今となっては判らない。

ただ…愛した女はもう、この世に居ない。
それが、事実。

「カイ?」
「風呂、入ってくる…」

静かにその場を去る海を
誰も止めなかった。

泣かせてやろう。
そう、思ったのだろう。
今は只、愛する女の為に。

* * * * * *

「仕事は順調だよ、ユウ」

海は墓に向かって語り出す。

「よく一人でやってたよな、あんな仕事。
 俺なんかヘトヘトでさ」
 
幻の彼女は笑っていた。

「…相棒が欲しいぜ。
 今度は…死なない相棒が良いな」
そう言って、失笑した。

「俺より先に死なれるのは…
 もう嫌なんだ」
 
初めて口にした弱い台詞。

アレから何人の人間と交わっても
快感は生まれなかった。
空しさと寂しさが去来するだけで。

「ユウ…」

彼女に依存していた自分。
でももう彼女は居ない。

自分は一人で歩き出さなければならない。
敵は、余りにも大きい。

「俺に務まるかな…?」

『大丈夫よ』

風が、彼女の声を乗せた様に感じた。
優しい風が髪を撫でる。
ユウが死んで、伸ばし始めた髭も
少し見られるようになった。

「俺は…何処に進んでいくんだろうな?」

薄い笑みを浮かべ、そっと紅い薔薇を一輪置く。
彼女の愛した真紅の薔薇。

「よく、似合うよ…」

海はそれ以上何も言わなかった。

「…さよなら、ユウ。
 もう…此処には来ない」

決別。

何時かはしなければいけない事だと判っていた。

「だけど…愛してた。
 本気で俺は…ユウを愛してた。
 だから…さよなら……」

海は墓地を後にした。
自分の人生を、静かに歩き始めたのだ。

* * * * * *

気紛れに立ち寄った公園で
海は一体の悪魔と遭遇する。

夜魔、サキュバス。

そして…それが新たな話の幕開けとなった。
海と紗羅が巡り会ったのは
偶然の産物なのだろうか。

それとも…。
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