誰も居ない墓地。
花を手向け、海は微笑んだ。
「ずっと…好きだったんだ」
それはユウの墓。
外人墓地にひっそりと佇む小さな墓。
彼女らしいと、思った。
彼女が残り幾ばくも無い命だった事実は
復讐を遂げたその日に知った。
「彼女はね、病人としての死では無く
『掃除人』としての死を選んだ。
ただ、それだけなんだよ」
Tは静かにそう言い残した。
ボブも竜兵も知っていた。
海だけに伏せられた事実だった。
「…だよな」
小さく、呟く。
「でなきゃあんな外道に彼女が…」
後は声にならなかった。
潔い死だったのか。
それとも惨めだったのか。
もう、今となっては判らない。
ただ…愛した女はもう、この世に居ない。
それが、事実。
「カイ?」
「風呂、入ってくる…」
静かにその場を去る海を
誰も止めなかった。
泣かせてやろう。
そう、思ったのだろう。
今は只、愛する女の為に。
「仕事は順調だよ、ユウ」
海は墓に向かって語り出す。
「よく一人でやってたよな、あんな仕事。
俺なんかヘトヘトでさ」
幻の彼女は笑っていた。
「…相棒が欲しいぜ。
今度は…死なない相棒が良いな」
そう言って、失笑した。
「俺より先に死なれるのは…
もう嫌なんだ」
初めて口にした弱い台詞。
アレから何人の人間と交わっても
快感は生まれなかった。
空しさと寂しさが去来するだけで。
「ユウ…」
彼女に依存していた自分。
でももう彼女は居ない。
自分は一人で歩き出さなければならない。
敵は、余りにも大きい。
「俺に務まるかな…?」
『大丈夫よ』
風が、彼女の声を乗せた様に感じた。
優しい風が髪を撫でる。
ユウが死んで、伸ばし始めた髭も
少し見られるようになった。
「俺は…何処に進んでいくんだろうな?」
薄い笑みを浮かべ、そっと紅い薔薇を一輪置く。
彼女の愛した真紅の薔薇。
「よく、似合うよ…」
海はそれ以上何も言わなかった。
「…さよなら、ユウ。
もう…此処には来ない」
決別。
何時かはしなければいけない事だと判っていた。
「だけど…愛してた。
本気で俺は…ユウを愛してた。
だから…さよなら……」
海は墓地を後にした。
自分の人生を、静かに歩き始めたのだ。
気紛れに立ち寄った公園で
海は一体の悪魔と遭遇する。
夜魔、サキュバス。
そして…それが新たな話の幕開けとなった。
海と紗羅が巡り会ったのは
偶然の産物なのだろうか。
それとも…。