Scene・1

File・1

「どうするの?」

やや込み入った資料の中
ヨレヨレ背広の男が
ハイライトを吹かしている。

「どうするって?」
「お前ね。
 依頼人が『浮気調査』を
 依頼してるのに
 落としてどうするんだよ」
「俺の魅力でしょう」
「ばーか」
「未津流(みつる)さん…」

「俺もね、色々考えてるの。
 お前の所の家賃だって
 タダじゃないんだよ」
「まぁ、そうですね」
「何で探偵になったの、
 鷲汰(しゅうた)?」
「未津流さんが薦めたんでしょうが」
「そうだっけ?」

鷲汰はそう言うと
悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「今日は何して『遊び』ますか?」
「…良い性格してるね、お前さん」

* * * * * *

「はい、いらっしゃいませ」

いつもの如く店に立っていると
突然前方を
高い壁で塞がれた様な気分になった。

「繁盛してるかい、若頭?」
「あ…」

地上げ屋だった。
拓馬(たくま)は表情を強張らせる。

この周辺は
市の土地開発区域に指定され
昔馴染みの店は無理やり
店仕舞いを余儀なくされていた。

今こうして頑張っているのは
拓馬の八百屋位だろう。
5代も続く店だけに
自分の代で終わらせたくは無い。

拓馬も必死だった。

「もう諦めて
 畳んじまえよ」
「…断る」

拓馬は恐怖心と戦いながらも
毎回こうやって断っている。

顔面に青痣が出来るのも
流石に慣れてきたが。

「物分りの悪い人間は
 長生きしないぜ?」

シュっと拳が風を切る。

「!!」
拓馬は条件反射的に
目を閉じた。

が、何時まで経っても拳は来ない。

「?」
恐る恐る目を開けると
其処には未津流が笑顔で立っていた。
手には44マグナム。

「未津流さん?」
「はい、其処まで。
 でないと、コレ撃つよ?」

未津流はニコニコしたまま
リボルバーを絞る。
これ以上無い脅迫ではないか。

「…命拾いしたな」

男達は捨て台詞を吐くと
足早に去っていった。

「助かった…。
 でも未津流さん、ソレ…?」
「アイツ等、素人?
 モデルガンと本物の
 区別も付かないんだ」
「普通は付かないでしょうよ。
 遠目からじゃ…」

拓馬は思わず苦笑を浮かべていた。
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