Scene・2

File・1

上機嫌で台所を陣取る男が一人。
狭いキッチンに
炎の柱が出現しているが
いたって落ち着いたものである。

「なかなかミディアムな
 焼き具合だな。
 …魚だけど」

イメージでは
ステーキだったのか。

「張り切って作ったんだが
 腕を振るう相手が居ないのは
 非常に切ないな」

鷲太はそう呟くと
器用にフライパンを滑らせ
焼き魚を皿に盛る。

「先生はご多忙だし。
 八百屋青年は…
 あぁ、何か用事が有るって
 言ってたか」

パラパラと白紙の予定表を見る。
面白い事件でも有れば良いが
流石にそれは無い。

「ニュースを見ると
 気が滅入るし。
 嫌な世の中だこと」

上品にフォークとナイフを使いながら
鷲太は魚を食し始めた。

* * * * * *

「はい、異常無いよ。
 もう大丈夫」

そう言うと白衣の青年は
にっこり微笑んで
少年の頭を撫でた。

「よく頑張ったね」
「有難う御座います」

母親は深々と頭を下げ
子供を抱き締める。

「もう暫く様子見ですね。
 あぁ、薬はもう要らないかも。
 後は自分の力で、ね」
「ありがとう、先生!」

「本当、
 璃虎(りく)先生が
 居てくれるから
 安心だわ」
「そうよね。
 最近は小児科の先生が
 減ってるって言うから」

待合室でそんな声が聞こえてくる。

『この仕事…。
 キツいけど、続けて良かった』

璃虎はふと笑みを浮かべると
カルテを持って
会計室に向かった。

「ん?」

見覚えのある顔が
待合室で待機している。

「…またかよ」

璃虎は溜息を吐きながら
会計業務を終了させた。

* * * * * *

「でだ…」

食卓に上がり、
野菜炒めを美味そうに食しながら
未津流は何かを思い出したかの様に
口を開いた。

「そろそろ動くぞ」
「…え?」

「またね。
 お仕事が入ってるの」
「お仕事って…
 鷲汰さんのお手伝い?」
「そう。
 別名【ボランティア】作業」
「…解りましたよ」
「理解早いね。
 流石は拓馬!」
「未津流さんには
 助けてもらってますから」

拓馬は茶碗に白米をよそい
苦笑を浮かべている。

「この店だけは
 何としても守りたいし」
「そうだね。
 もう何代目だっけ?」
「俺で5代目です」

「じゃあ守らないと。
 近所のおばさん連中も
 お前さんの店の野菜のファンだし」
「そうなんですか?」
「そうよ。
 安いし美味いし。
 なかなかお目に掛かれないよ
 こんな良心的な店」

味噌汁を啜りながら
未津流はふと視線を外に向ける。

「…さて。
 鷲汰に連絡を入れるか」

やる気なのだろう。
その瞳が輝いている。

「未津流さん…」
「ん?」
「嬉しそうですね」
「まぁね~」

この人は不思議な人だと
拓馬はつくづく思ってしまった。
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