Scene・1

File・3

鷲汰はその日、珍しく事務所に居た。

前日に電話が入り
事務所に留まっておく様に、と
念を押されたのだ。

特に用事も無かったので
町内をブラブラと徘徊してやろうと
思っていたのだが、見事にパーである。

「手土産に期待…出来そうに無いな。
 来るのがアイツだもんな」

可愛い内面双子姉妹(=水仙と鈴蘭の事)は
巳璃と出掛けてしまっているらしく
花にも縁遠くなってしまった。

「不貞寝しちゃうよ、もう…」

誰に聞いてもらえる訳でも無い独り言をゴチながら
鷲汰はソファで体を伸ばす事にした。

* * * * * *

「シューちゃん!」

大昔に呼ばれていた渾名を聞き、
鷲汰はソファの上で思わず
直立不動のポーズを取っていた。
横になりながら、器用なものである。

「何してんの?」
「い…いや、別に…」

声の主は竜彦である。
彼の方が鷲汰よりも少し細身ではあるが、
それ以外は見事なまでに他人の空似。
昔はよく「双子? 兄弟?」と聞かれたものである。

「タッちゃん…帰省中だったっけ?」
「いや、完全に帰って来た」
「な、何ですとっ?!」
「島に病院と云うか、総合診療所が立ってさ」

竜彦曰く、後任が出来て引継ぎも完了したので
生まれ育ったこの街に戻って来た、との事だった。

「で、これからどうするの?」
「俺、外科医だからさ」
「うん、それは知ってる…」
「璃虎と一緒に診療所で働くわ」
「璃虎の所って…小児科なんですけど……」
「小児科と外科が一緒になって何が悪い」
「……」
「子供はよく怪我をするんだし
 大きな病気もするもんだ。
 便利じゃねぇか、外科医が居たら」
「医者の事はよく解りません…」
「ま、掻い摘んで言えば
 俺は璃虎と一緒に住むから」

竜彦は昔から人の話を聞かない奴だった事を
鷲汰は今更ながらに思い出した。
そして、このマイペースさが
彼にとっては非常に扱い難い事も。
鷲汰から見れば、
竜彦は正に最強の【俺様】主義なのだ。

「璃虎は同棲に賛成してるの?」
「軽々しく同棲と言うな!!」

いきなり拳骨が飛んできた。
忘れていたが、竜彦は手が早い。
然も喧嘩で負けた事が無い。
口でも手でも、鷲汰が敵わない相手である。

「シューちゃん」
「はい?」
「お前、面白そうな事やってるよな?」
「?」
「探偵ごっこ」
「仕事だよ。…一応」
「偶には手伝ってやっても良いぜ」

恐らく璃虎から筒抜けだったであろう。
鷲汰は観念した様に頷くだけだった。
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