Scene・2

File・3

一方、此方は姦しい3人娘(?)の温泉旅行。
巳璃は妹が出来て嬉しいのか、
水仙に浴衣を色々と試着させては写真に収めている。

「水仙、込み入った話するけど」
「はい…」
「アンタの中にもう一人、
 『誰か』が居る感じとか…しない?」
「別の誰か、みたいな…?」
「そう。どう?」
「えぇ、してます」
「何時から?」
「物心ついた時から…。
 でも自分ではどうにも出来なかったりするし。
 時々、記憶もおぼろげになるし」
「そっか……」

巳璃は璃虎から【解離性人格障害】の疑いを聞かされたが
彼女自身は【別の要因】を感じ取っていた。
水仙は『水仙達で在る』かも知れない可能性を感じたのだ。

「そっち方面に強い奴が居るんだけど…
 流石に忙しくしてるかな」
「そっち方面?」
「アタシの彼氏」

臆面も無く言い切る巳璃に対し、水仙が赤面している。
これでは立場が逆である。

「可愛い妹を紹介してみたいし…
 呼んでも良いかな?
 来るかどうかは判らないけど」
「私も…会ってみたい、かな」
「良い男よ」

巳璃は微笑みながら携帯を取り出した。
シンプルなデザイン。
白地にピンク色のラインが際立っている。

慣れた手つきで煙草を燻らせながら
巳璃は携帯を操作した。

* * * * * *

舞台替わって、何処かの高層ビルの一室。
ガラス張りの壁の会議室内。

上座を陣取る男の胸に微かな振動が響く。
そう。巳璃の電話の相手、彼女の恋人である。

「若?」
「ちと退席する。話纏めとけ」
「はい」

世話役にそう言付けると
彼、甲亥(こうがい)は足早に部屋を出る。
手の中に納まる程の小さな携帯を取り出し、
直ぐに着信した。

「何や、巳璃。今、会議中」
『あ…御免、御免。
 てか、会議中なら留守電にすれば良いじゃないか』
「お前やと思たから出たんじゃ。
 で、何や?」
『この間話した娘の事なんだけど…』
「おぉ、あの双子か」
『アンタは最初から『双子』呼ばわりよね』
「見えとるからな」

甲亥は巳璃が言わんとしている事も
どうやら見抜いた様である。

「今、何処に居るんや?
 いつもの温泉宿か?」
『御名答』
「じゃあ、今から行くわ」
『行くわって…アンタ、会議は…?』
「んなもん、部下にやらせたらえぇんじゃ。
 ワシは詳細さえ連絡寄越して来たら
 それ聞いて判断下したるだけやし」

甲亥はそう言うと、短く挨拶を送って電話を切った。
その足で素早く部屋に戻る。

「若?」
「出掛ける。何か動きが無いかだけ探っとけ」
「判りました。もし動きがあれば…」
「指示は順次出したるさかい、勝手に動くな。えぇな?」
「承知致しました。では急いで手配を…」
「構へん。私用やから気にすんな」

甲亥は世話役の肩を数回叩くと
不敵な笑みを浮かべていた。

「荷葉(かよう)組を舐めたらどうなるか、
 タップリ思い知らせてやるからな…。
 待っとれよ、腐れ外道」
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