Act.1:Prologue

Urthr 編

「っしゃ! これでどうだっ?!」
一際元気な声が戦場に響き渡る。
その声に笑う者、驚く者、呆れる者。

「デーモンズ・マスターも楽じゃねぇんだよな」
「アークは特別だもん」
アークと呼ばれた青年は、
自分の肩に留まる妖精の少女(ピクシー)に微笑を浮かべる。

「そうだよな。俺、最高!って?」
苦笑いを浮かべる仲間を尻目に、
アークは愛用の剣をスッと振った。

「…にしてもしつこいね。
 『クリスタルマーカー』さんもさ」
「それはお前さんが一番詳しいんじゃないの?」
「タラーク…。
 俺は最下層の雑兵だったんだよね?
 上の考えなんか知る訳無いじゃん」

「あはは、そうだったか!」
乱れに乱れ放題な髪を掻き毟りながら、
豪快にタラークは笑い出した。

「褒めてんのか貶してんのか、
 どっちだタラーク?」
「それくらいにしておけ」
それまで黙って聞いていた隻眼の男が
日本刀を鞘に納めながらボヤいている。

「追撃が来るぞ」
「はいはい。
 顔が広いと大変だよ。
 モテモテでさ」

タラークは少しも懲りていない様子だ。

「ウーン、有難う。
 愛されてるよな、俺様」
「…お前が居ないと何かと不便だから」
隻眼のウーンは苦笑を浮かべている。

「冗談はさておき、出立するぞ」
苦笑を浮かべたままだった為か、
やけに優しい穏やかな口調でウーンは出発を促した。

* * * * * *

屋根のある所で寝るチャンスはまず訪れない。
深い森の古株に寄り添うようにして眠る。
勿論、何が潜んでいるのか判らないので
交代して見張りを行う。

「…眠れないのか、キリーク?」
薄着の青年を抱き寄せ、声を掛けてやる。

やや日焼けした肌には蛍光色の刺青が輝いている。
魔法を用いる事が出来るこの青年、キリークとの付き合いは長い。

人間は基本的に魔法を用いる事が無い。
その素質が無い為だ。
魔力の恩恵に与ろうとするならば、
タラークの様に補助具を用いるしかない。

そう云う意味でもキリークは
自力で魔法因子を『召還』出来る
希少価値の高い存在だ。

「怪我、してないか?」
キリークはたどたどしい言葉使いでアークに答える。

「大丈夫。心配は要らないって」
「…本当、か?」
「勿論本当だ。俺が嘘吐いて事が有ったか?」
「無い。…解った」

漸く納得したのだろう。
キリークはアークの肩に身を預けると
そのまま瞼を閉じた。

「眠った?」
心配そうに声を掛けてきたのはタラーク。

「あぁ、一先ず」
「良かったよ。
 魔法使いは精神力の消費が激しいからな。
 寝ないと保たない」

「詳しいな…」
「一応、俺も魔法使うし。
 卑怯技だけど」

話に加わっては来ないが
ウーンも心配しているだろう。

「ピクシーは平気か?」
「平気! 悪魔は人間と違うんだもん」
「そうか…」
「アークってさ、優しいよね。
 普通は従属悪魔に気を使ったりしないよ?」
「…そう?」

アークは不思議そうにタラークを見つめるが、
彼は静かに笑みを浮かべるだけだ。

「アークは優しい人間。
 私はアークと契約して良かった!」
「ピクシー…」
「これからも宜しくね、デーモンズ・マスター!」

元気の良いピクシーの声に
アークは思わず吹き出してしまった。
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