Act.2:Trigger

Urthr 編

そもそもこの世界は
エネルギーバランスの崩壊した結果であるらしい。

有象無象に現れる悪魔の実態も
純粋なエネルギー体であると表現した科学者も居る。
だが、結果的に何がどうなっているのかを
正確に説明する事は誰にも出来ずに居た。

『クリスタルマーカー』がこの世界に力を表したのは
そんな人々の恐怖心を利用したのだろうと噂されている。

悪魔を従事出来る力の持ち主。
それが、『クリスタルマーカー』組織員の資格である。
自称『法と秩序の警備者』である組織だが
その横柄な態度に、市民は口に出さずも不満を抱いていた。

『クリスタルマーカー』による恐怖政治は
もう半世紀以上続いていた。

* * * * * *

焚き火の炎を見つめながら
アークはぼんやりと過去を思い出していた。

この世界の統一組織である『クリスタルマーカー』に加入したのは
実家への仕送りが魅力的だったからに過ぎない。

組織の裏の顔や思想などは
彼にとって何の意味も成さない。

与えられた任務も大した物は無く、
静かだが、平穏な日々を過ごしていた。

「切っ掛けを与えてくれたのは…お前だよ」
緑色の髪をそっと撫で、
アークは優しい表情でキリークを見つめる。

人でありながら魔力を行使出来る存在として
キリークはずっと狙われ続けている。
そして…。

「…信用ねぇなぁ」

キリークの腰部分に装着されていた
純白のカプセルが不意に輝き出し、
光の粒子は或る形を作り上げていく。

白く輝く巨獣。

「ケルベロスよぉ…。
 一寸キリークに対して過保護過ぎやしねぇか?」
『人間は信用出来ん』
「キリークが聞いたらまた落ち込むぞ、その台詞…」
アークは溜息を吐きながらケルベロスを見上げる。

この巨獣はキリークの育ての親だと言う。
幼くして両親を失った彼を拾い、ずっと育ててきた。

『契約』と云う形を持たずして繋がっている
デーモンズ・マスターの関係からいけば
非常に珍しいパターンだ。

『アーク』
「何だよ、ケルベロス?」
『キリークを哀しませるな』

言いたい事を言い終えたのか、
ケルベロスは再び自らをカプセルの中に封印した。

* * * * * *

「自分が希少価値の高い存在だって事に
 気付いてるのかね、ケルちゃんは?」
「タラーク。
 済まないな、賑やかで」
「暇を持て余していたから
 コレ位の方が丁度良い」
おどけた笑みを浮かべてタラークが近付いてくる。

「ウーンは?」
「多分もう少し先まで見に行ってる。
 アイツは几帳面で心配性だから
 明日のルートを検索してるんだろう」

胸ポケットから何かを取り出すと
タラークはそれを口に咥える。

何でも、聞いた所によると彼は
自分で過去の嗜好品である『タバコ』を作り出して
愛用しているのだという。

「吸ってみる?」
「流石に御免蒙る」
「美味いのに…」
「キリークが煙で参ってたからな」

副煙でやられたらしく
それに懲りたキリークは
以降タラークが喫煙中には近付かない。

「静かな時間は嫌だね。
 ついつい昔のつまらない事が
 頭を過ぎって来るんだし」
「…タラークでも、そんな事有るのか?」
「俺も結構『狭い』人間でね。
 意外と成長出来てない訳よ」

相変わらずおどけているタラーク。
その言葉の信憑性も疑わしい物である。
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