Act.10:Memories・3

Urthr 編

忍び足で地下牢に近付くと
柵の隙間から中の様子が見られた。
鎖で天井から両手を繋がれたまま
キリークは意識を失っている様だ。

「どうやって中に入る?」
ピクシーが心配そうに
アークの顔を覗き込んできた。

「見張りは居ないみたいだな」
「そうね、従属悪魔の気配もしない」
「電子錠の開錠は
 多分俺の持ってるカードキー位じゃ開かない」
「お手上げじゃない…」
「いや…そうでもない」
「どう云う事?」
「ピクシー、お前の出番だって事」
「??」

ピクシーはいまいち合点が行ってない様だ。
アークは頭を抱えながらも
何とか説明せねばと気を取り直した。

「電子錠はこのケーブルを通じて
 あの機械に接続されてる。
 見えるか?」
「うん、見えるよ」
「あの機械のアンテナ部分に
 『イー』を打ち込め」
「成程! 頭良いね、アーク」
「…莫迦だと思ってたのか」
「愛嬌のある莫迦だと思ってたわ」

ピクシーはクスクス笑いながら
柵を潜り抜けていく。
其処までの仕掛けは用意してないのだろう。
やがて機械のアンテナ側まで到達すると
アークに合図を送る。

「一瞬でも錠を制御してる回路が
 混乱を来たしてくれればOKだ…」

アークは自身の剣を構え、
準備が出来たと合図を返す。

「我が友、雷の精霊の加護を。
 『イー』!!」

その直後、確かに電子錠が
シグナルを赤から青に変化させた。
容赦無く開き掛けた錠に剣を振り落とすと
意外にも呆気無く錠前が砕けた。

アークは其処から一気に
天井に繋がっている鎖に一太刀浴びせた。
流れる様な連携攻撃。
拘束が外れ、自由になったキリークの体は
そのまま床に激突…しそうだったが。

「キリーク…?」
「アーク…来てくれたんだ…」

激しい暴行の後を窺わせる
酷く腫れた顔を気にする事無く
キリークは優しい笑みを浮かべている。

「来てくれると思ってた。
 良かった、アークが無事で…」
「キリーク…済まない……」

謝って済む問題ではないが
アークにはそれしか言えなかった。
手錠を外し、彼を完全に自由にしてから
ピクシーを連れて地下牢を出る。

「さて、早く此処から脱出しないと」
「俺、まだ出る訳には行かない」
「えっ?」
「家族を、取り戻さないと…」

キリークはそう言うと、
腰のベルト部分に手を当てた。

「此処に閉じ込められてから
 家族を奪われたんだ。
 助けに行かないと」
「家族って…?」
「もしかして私と同じ従属悪魔?」

ピクシーの問い掛けに
一瞬だがキリークは
怪訝そうな表情を浮かべた。

「家族は『家族』だよ。
 従属なんて…」
「あぁ…御免。
 そうか、アンタも
 デーモンズ・マスターなんだ」

悪魔を「従える」のではない。
キリークの云う『家族』の意味を理解し、
ピクシーは彼女なりにキリークを認めた。

「じゃあ早く迎えに行こうよ。
 何処に居るの、その家族?」
「この施設の一番上から
 気配を感じてる」
「隊長室だよ…」

アークも既に覚悟は決めた。
このままではどうせ
何時かはこの間の如く
使い捨てにされる運命だ。

自分の家族、母親の事も
忘れた訳ではない。
だが、もうこれ以上
非道な輩の元では働けない。
事実を知ってしまった以上。

「決着を着けに行こうぜ!」
アークの号令に
キリークとピクシーは力強く頷いた。
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