この世界には『四季』と呼ばれるものは無い。
いつも灼熱の砂漠地帯。
植物も殆どお目にかかれぬ始末。
今世の地獄と称するに相応しいばかりの不毛地帯。
「夏になると蝉と云う昆虫が現れてな…」
休憩中、ウーンはふとそう呟いた。
昔を語るウーンの表情に
俺は少し物悲しさを感じてしまう。
もう戻れない時代、場所。
奪われたそれ等を懐かしく思い日々。
「僅かな期間でしか、成虫として生きられない。
それでも彼等は懸命に鳴いている」
「…どうして?」
「何故なのか、それは蝉にしか解らん。
だが…共感する何かは、我々も持ち合わせている筈だ」
「そうだね…」
ウーンの思い出話を興味深そうに聞いていたキリーク。
そんな2人を静かに見守るタラーク。
生まれはそれぞれに違う。
境遇もそれぞれ違う。
だが、だからこそ解り合える『何か』が有る。
「この世界でも…蝉の鳴き声が聞こえると良いな…」
眩しいばかりの青空を見上げ
俺はそう呟いた。