Der Anfang・2

最終章

『そう言えばさ』

薫の言葉を遮る様に鈴江が声を出す。

『タカさんから頼まれてた件。
 渡したいんだけどさ』
「勝手に渡せば?」
『捜査課経由はヤなんだってさ。
 ほら、必ず町田君が絡むじゃない。
 まぁ気持ちは解るけどね。銀星会絡みだし』
「銀星会なんてとーっくの昔に
 ブッ潰しちゃったじゃないのさ!
 他ならぬタカさんと大下さんがっ!!」
『本体はね。でも全て死に絶えた訳じゃ無い。
 実際に残党がまだ存在して活動してるんだし』
「で。何でアタシ指名なのよ?」
『薫ちゃんが一番適任なんだって。
 何しろあの二人共付き合いが長い訳だし』
「金の切れ目が縁の切れ目って言うし~」
『じゃあ借金完済したの? あの二人』
「まだよっ!!」
『それなら丁度良いじゃん。縁も切れてないし』

鈴江は背後の呼び掛けに何かを返答していたが。

『じゃあ薫ちゃん経由って事で話つけておくから』
「えっ?!」

一方的に話を纏めると、そのまま電話を切ってしまった。

「これだから嫌なのよ! 弱みを握らせない男って!!
 岸本もこのアタシを差し置いて
 いつの間にか捜査課に引き抜かれてるしーっ!!!」

キィーッと癇癪を爆発させ、机上の書類を空中にばら撒く薫。
後始末の事等、彼女の頭の中には
これっぽっちも存在していなかった。

* * * * * *

「で! こ・れ・っ!!」

数日後。

律儀に自分宛に届いた茶封筒を鷹山の胸に押し付けた。
封筒越しに胸をグイグイ押す事で
少しは自分の怒りに気付け、とのアピールだったが。

「何これ?」

当の鷹山がこの調子である。
この歳にして若くてスタイルが良くて美人で学も有る
キャリアも充分な御嬢さんを仕留めた男だけに
色恋惚けでも起こしているのではないだろうか。
そう思うと益々怒髪天の薫であった。

「アンタねぇ~?
 こ・の 薫ちゃんが鈴江さんに使いっパシリされて
 せ~っかく渡してやったと云うのにその態度?
 要らないの? ねぇ、要らないの??」
「???」
「あ、薫~! 丁度良いタイミングで
 念願の資料を持って来てくれたんだ~♪」
「?? ユージ?」

薫の怒りを察してスッと茶封筒を取り上げたのは大下だった。
今の薫の発言を聞いていれば
封筒の中身が何であるかも見当が付く。

正に今の自分が待ち望んでいた【証拠】の為の書類。

「いつもいつも薫様には助けて頂いて~。
 ほらタカ、頭下げとけ下げとけ!」
「???」

まだ今一現状が理解出来ていない鷹山に
大下は心の中で『色惚けしやがって』とゴチる。
奇しくもそれは薫の感想と同じだった。
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