山県はのんびりと椅子に腰掛け、
オーバーに伸びをして言った。
「こう暇じゃ体が鈍るよなぁ~」
「じゃあ組み手でもしますか?」
北条は珈琲片手にそっけない返事をする。
「偶には休ませて下さいよ。
大将は非番明けだから良いけど、
俺…宿直だったから」
「ほぉ~。
で、書類は上がったのか、ジョー?」
「…上がってないから今書いてるんすよ」
「ジョー」
遠くの机から声が飛ぶ。
大門の後を引き継ぎ、
軍団を任された小鳥遊(たかなし)だ。
「今日までだからな」
「解ってますよ、班長…」
そう言うと北条は再びブツブツと
机に向かって何かを唱え始めた。
「ご愁傷様」
山県は十字を切ると
不意に刑事部屋の扉を眺めた。
扉が開き、
鳩村が、平尾が、立花が帰って来る。
「おぉ、お帰り」
「ただいま、大将!」
「冷たっ! くっつくな、一兵!!」
「暖めてよ~大将~~」
2人がじゃれあっているのを他所に
鳩村は自分の席に着いた。
立花もそれに習って椅子に座る。
「パトロール、異常無しです」
「ご苦労さん」
小鳥遊から労いの言葉。
鳩村は会釈すると煙草に火を点けた。
「平和ですね」
立花の声に、
鳩村は微かだが頷く。
「つまんねぇよ、退屈で」
「大将さん…」
「何かこう、
吃驚する事でも起きないかな?」
「不吉な事言わないの、大将。
それでなくても現実になるのに」
「…今事件起こされたら
この書類が上がりません……」
平尾と北条に苦言を呈され、
山県は顔を顰めた。
「又見事なミミズだな」
鳩村に嫌味を言われながら
何とか北条は書類を書き上げた。
「コレで何枚目だ? 始末書」
「…原因は大将ですよ。
俺はとばっちり!」
北条は激しく山県を睨み付けると
小鳥遊に書類を提出した。
「…よし、一応はコレで良いか」
「一応、なんですね…」
コレが精一杯の北条は
項垂れて席に戻った。
「報告書、始末書。
ジョーは直ぐに貯めるからね」
平尾は眼鏡を拭きながら
笑顔を浮かべている。
「昔から本当に
文章書くのが苦手なんだから」
「仕方が無いでしょ?
本当に嫌いなんすよ…」
「ジョー先輩にも苦手な物あるんですね」
立花の微笑みに、
北条は苦笑を浮かべた。
「ジョーは女の子も苦手だからな~」
「一兵さんっ!!」
顔を真っ赤にして怒る北条に
平尾は慌てて鳩村の後ろに隠れる。
ついつい余計な事を言う性格は
どうやら治りそうも無い様だ。