平尾の警察手帳に貼られた写真を見て
山県は茶々を入れた。
とにかく暇だとこうやって誰かをからかう。
山県は賑やかな男である。
「コウ! お前のも見せろよ」
「嫌ですよ。
大将さん、『女が写ってる』って
この間散々莫迦にしたでしょ?」
「そうだっけ?」
「だから大将さんには見せません」
「こいつ~!!」
「止めとけ、大将。
コウが相手じゃ返り討ちだ」
鳩村はそう言うと
笑いながら英字新聞を広げている。
「ジョー、お前の貸せ」
「お断りします」
「何で? お前まで俺に楯突くのか?」
「…俺の警察手帳に
落書きしたの、大将でしょ?
あれ、…消すの大変だったんだから」
「あ…バレたか……」
「早く嫁さん見付けて下さい。
…この世の平和の為に」
「ジョーッ!!」
山県は得意の右ストレートを打ち込むが
北条は余裕でそれを交わしていた。
「武術じゃジョーの方が上よ、大将…」
「うるせぇ!!」
「…大将」
見かねた小鳥遊が声をあげる。
「はい?」
「そんなに暇なら
特殊車の洗車を頼む」
「…今からですか?」
「今からだ。
マシンを酷使して洗車もせんとは
刑事の風上にもおけんだろう?」
「一人でですか?」
「そうだ」
「…班長~」
「行ってこい」
「…はい」
「「行ってらっしゃ~い!!」」
「くそっ! こんな時だけ
綺麗に声揃えやがって!!」
山県は散々吠えると
刑事部屋を後にした。
「で、これ…」
平尾は笑いを抑えながら
一冊の警察手帳を広げる。
「大将の」
「へぇ…開けろ開けろ」
「待って、今…」
「うわっ。大将さん、真面目な顔してる…」
「変な顔…」
鬼の居ぬ間の何とやら。
山県が居ない間に
彼等は散々彼の証明写真に
酷評を囁いている。
「こうして見るとやはり『オッサン』だな」
「年はハトさんと変わらないんだけどな」
「俺は内面を磨いてるからな。
大将とは違う訳よ」
「で、女性にもモテるんですか?」
「レクチャーしてやろうか、コウ?」
「遠慮しておきます…」
「僕にレクチャーして下さいよ、ハトさん~」
「一兵は又今度な」
「そればっかしなんだもんなぁ~」
絶え間ない笑い声。
それをBGMに小鳥遊は一人茶を啜っていた。
「ん?」
ふと湯飲みを覗いた。
茶柱が立っている。
何となく良い気分だ。
「大将、真面目に洗車してるかな…?」
小鳥遊の声は
寒風の下の山県に聞こえただろうか。
お題提供:[刑事好きに100のお題]