Act・10-1

NSM series Side・S

誰かを守りたいと思った時
その瞬間、自分の事をどう捉えているだろうか。
目的の為ならば死んでも良いと安易に思える奴に
誰かを守り抜く事なんて出来るのだろうか。

俺が導き出した答えは…No、だ。

あの瞬間、団長は自身の死を待ち受けてはいなかった。
死ぬかも知れない。それは覚悟していたが。
だが…勝負がついたと思われたあの一瞬
団長は確かに生還を強く意識したに違いない。
戻る為に、だ。愛しい妹の下へ。

「うっ…くぅ……」

俺は体を捻り、漸く後ろ手に拘束されていた縄を切断した。
彼女が、沙耶さんが脱出間際に残してくれた果物ナイフ。
時間は掛かったが、これで少しは自由に動く事が出来る。
後は…。

「吉岡」
「ん、どうした?」
「そろそろ、行こうか」
「…良いのか?」
「あぁ。覚悟は出来てる」
「……」
「俺が殺る。お前は血を流すな。良いな?」
「……出来るのか?」

俺は不敵な笑みを浮かべて見せた。
何処で【奴等】が見ているか判らない以上
下手な芝居は却って危険性が高まる。

「やるだけだ。頭ん中空っぽにしてな」

吉岡から渡されたS&W M39を手にする。
装填された弾丸の数を確認し苦笑を漏らす。

『ハトさん』

暫く見ない先輩の顔を思い浮かべる。
一体どんな表情を浮かべて俺達は対峙するだろうか。

『俺は、迷わずに引き金を引く。
 死ぬ為じゃない。生かす為に。
 だからハトさんも迷わずに撃ってくれ』

「死ぬなよ」

吉岡から掛けられた一言に
俺は意表を突かれ、驚いた顔を浮かべた。

「何だよ、急に?」
「いや…何となくさ、
 アンタの言う【覚悟】ってのが
 妙に重く感じてさ……」
「覚悟ってのはそんなモンだろ」
「まぁ、そうだけどよぅ…」

俺は黙って吉岡の方を数回軽く叩いた。
心配は要らない。
お前を繋ぐ鎖は俺が断ち切ってやる。
お前は…妹さんを迎えに行かなければならないんだ。

そして…奴等には。
人柱に俺を選んだ事を、後悔させてやるよ。

* * * * * *

鳩村の携帯がコール音を鳴らしたのは
陽が暮れかかった頃だった。

非通知着信

向こう側は正体を知られたくないらしい。
しかし、向こう側は鳩村の事を知っている。

「おいでなすったかな?」

鳩村は2コールの後、電話に出た。

「Hello」
『……ハトさん?』
「お前…ジョー、か?」
『あぁ。久しぶり』

そんな気はしていた。
行方不明のままの北条が連絡を寄越す時
彼は先ず自分を指名して来るだろうと。

「今、何処に居るんだ?」
『今迄の場所は言えない』
「今迄は?」
『あぁ。でも、今からの場所なら言える』
「何処だ?」
『…青梅埠頭』
「青梅埠頭? 其処に居るのか?」
『そうだ』
「ジョー…」
『決着を付けよう』

北条が漏らした【決着】と云う単語に
鳩村は不敵な笑みを浮かべた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
Home Index ←Back Next→