Act・3-1

NSM series Side・S

「本当、此処の職場って
 生傷が絶えないよね…」

平尾は擦り剥いた手の甲に
絆創膏を貼りながら
一人で愚痴っている。

「お前さ、
 運動神経が切れてるんじゃないの?」
「ハトさん、酷ぉーーーっ!!」

確かに、このメンバーでは
平尾の怪我は多い方かも知れない。

「擦り傷、切り傷、打ち身に捻挫…」
「おまけにビンタのサービスだ」
「コウ君! 大将っ!!」

「でも…冗談抜きで
 一兵さんは少しの怪我で
 大騒ぎし過ぎですって」
「そう?
 そう云えば…ジョーって余り怪我しないな」

「『しない』んじゃなくて
 『しても黙ってる』んだよ、コイツは」

鳩村が溜息交じりで呟く。

「刃物で抉られるか、銃で撃たれるか。
 それ以外は絶対に自分から言い出さないからな。
 少しは自己申告しろよ」
「打ち身や捻挫くらい
 怪我の内に入らないっすよ」
「鈍いんだよ、お前は」

今度は山県に突っ込まれ
北条はムッとしている。

「でも…武道を嗜んでいると
 受け身が自然に出てきますから
 確かにジョー先輩の怪我は
 少ない方ですよ」
「それはお前も同じだろう、コウ?」
「えぇ。
 ハトさんもどうですか?」
「…遠慮しておくよ」

自身の柔道着スタイルを思い浮かべ
鳩村は顔を顰めた。

「そう云えば…」

平尾が更に続ける。

「僕達が世話になってる先生、
 本当に腕が良いよね」
「…そうだな。
 普通撃たれたら、銃創が残るわ」
「跡が残りませんもんね。
 凄い外科処置なのかも」
「俺達の治癒能力も
 侮れないって事だぜ、コウ」
「確かに大将さんは侮れない…」
「あん?」
「独り言です……」

立花は山県から視線を逸らす。

その姿が可笑しかったのか、
数人が同時に吹き出した。

* * * * * *

「どうだ、少しは傷が癒えたか?」

不意に木暮に呼び出され
北条はCORNER LOUNGEに居た。

「傷?
 俺、何処も怪我してませんよ?」

「お前さんのは…
 『心の傷』だよ」

いまいちピンとこないのか
北条はキョトンとしたままだ。

「大将や一兵はあぁ見えて結構丈夫だ。
 ハトも一時期 心配していたが
 コウの加入でかなり良くなりつつある。
 だが…お前さんだけは
 いつもどこかで
 『何か』を引きづったままだ」
「……」

木暮はブランデーで喉を湿らせた。

「団長の死、アコちゃんの結婚。
 お前はこれからもずっと
 これらの出来事を『傷』にして
 生きていくつもりか?」
「…俺は」

北条はそっとグラスに触れながら
呟く様に言った。

「俺は…『心の傷』なんて
 持って無いですよ……」
「そうか…?」
「はい…」
「……」
「……」

木暮にとっては
何とも言えない返答だった。

昔はもっと
自分の感情を表に出していたが
いつから彼は
こうなってしまったのだろうか?

「ジョー」
「はい?」

「傷は…自然に塞がるものと
 そうじゃないものがある。
 よく覚えておくんだ」

それが精一杯のアドバイスだ。
北条は黙って小さく頷いた。

「さて、呑み直すか」
「はい」

お題提供:[刑事好きに100のお題]
Home Index ←Back Next→