Act・3-2

NSM series Side・S

「ピカレスク小説って知ってるか?」

この間、偶然会った時に
高崎は立花にこう聞いてきた。

「ピカ…レスク?
 聞いた事は有るかも知れないけど」
「悪党小説の事らしいぜ」

「ふ~ん。
 でも、それと兄貴に何の関係が?」
「今度映画でな。
 それを題材にした物を撮るんだ」
「へぇ~」

「『闇夜の星』ってベストセラー小説」
「あ、それなら知ってる。
 …兄貴、出るんだ」

「映画界の大物が主演でさ。
 現場がピリピリしてるんだ」
「何の役なの、兄貴は?」
「聞いて驚け!
 実はな…主演の一人息子役だ」

高崎は誇らしげだった。

「…大役じゃない?
 確か作品中でもキーマンだったよね」

「あぁ。
 悪党に堕ちた父親を助けようと
 奮闘する存在だからな」

「大変だね…」
「寧ろ良い経験だよ。
 主演の渡良瀬さんの演技力を
 この目に焼き付けて、勉強させてもらうんだ。
 ドラマの出演機会は多いけど
 映画はなかなかチャンスに恵まれないからな」

ドラマの1クールとは違い
映画を1本撮るのには時間が掛かる。

渡良瀬の久々の主演作。
然もベストセラーが原作と云う事で
監督以下、スタッフも気合が入っているのだ。

マスコミも
『渡良瀬と高崎・時代のカリスマ共演!!』
と、題材的に扱っている位だ。 

高崎もプレッシャーが有るだろうに
それを見せないのが
この兄の凄い所である。

「…負けてられないな」

立花の小さい呟きに
高崎は優しい笑顔で答えた。

「お前は、『無理するな』!
 大体 功、お前はな……」

この後、延々と
兄からの小言が続くのである。

* * * * * *

「『闇夜の星』?」

「あれ、ハトさん知りません?
 ベストセラーになった小説ですよ」

「名前は知ってるけど
 読んだ事は無いな。
 で、それの映画に出るのか?」
「そうなんです」

鳩村は立花が見せた
一瞬の曇った笑顔を
見逃さなかった。

「コウ」
「…はい、何ですか?」

「お前と兄貴じゃ働く『現場』が違う。
 兄貴の活躍は喜ばしい事だが
 お前の働きが
 それに劣っている事は無い」
「ハトさん……」

鳩村は解っているのだろう。

優秀な兄を持つ事の誇り、憧れ。
そしてそれに相反する嫉妬、劣等感。

立花の心の葛藤は
それこそ昔から存在していたに違いない。

「自分の人生を誰かと比べるなんて
 可笑しいと思わないか?
 『Going My Way』って奴だよ」
「ハトさん……」

此処まで親身になって
色々と言ってくれるのは彼だけだ。

「まるで…」
「ん?」

「ハトさんも自分の『兄』みたいですよね」
「兄?」
「えぇ」

「…龍と同列か。
 光栄だね」

そう言いながらも
鳩村は苦笑いを浮かべていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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