Act・4-1

NSM series Side・S

「…これが」

平尾は唖然としている様だった。

署に届けられた『遺失物(おとしもの)』。
それは人肌の温かさがある動くもの。

「可愛いな、こいつ」
「ジョー…」

北条はそれをそっと抱き上げると
何度も優しく撫でてやる。

それまで怯えた様子だったそれは
彼を気に入ったのか
小さな舌でそっと彼の頬を舐める。

「意図的かな?
 署の前で態々…」

平尾はどうも腑に落ちない。

そう、それはまだまだ小さな生命。
自分で生きていくにはあまりにも幼い仔犬。

「お前、オス?」

北条は先程から話を聞いてないのか
この仔犬とのスキンシップに掛かりきりだ。

そう言えば以前
動物が好きだと言ってただろうか。

それにしても。

「お前さ、飼うの?」
「…無理ですよ、流石に」
「なら余り情をかけてやるなよ。
 可哀想じゃないか、その方が」
「……」

目に見えて肩を落とし、
北条は仔犬を箱の中へと返す。

しかし、仔犬はもうそれが我慢出来ないらしい。
彼のシャツにしがみ付き、噛み付き、
彼から離れまいと必死だ。

「…手遅れだ」

平尾はそう言うと
漸く笑みを浮かべた。

* * * * * *

「犬って落し物扱いなんだな?」

山県はそう言うと
仔犬を器用に構っている。

遊んでもらえて御機嫌なのか
仔犬は尻尾を千切れんばかりに振っていた。

「知らなかったんですか、大将さん?」
「…知ってるって」

立花は苦笑を浮かべるが
それも僅かな間の事。

「本当に…どうしましょう?
 この子の飼い主を探さないと」
「…本当に捨てたとなると
 冗談抜きで大変だぞ?」

「探しますよ」

口を開いたのは北条だった。

「このままじゃコイツ、
 生まれて直ぐにあの世行きじゃないですか。
 それじゃ余りにも酷過ぎます」

「…口で言う程生易しくは無いんだぞ?」

鳩村の言葉も北条の耳には入っていない。

彼は上着を握り締め、
そのまま外に駆け出していった。

「…どうするんだよ、アレ?」

呆れ顔の鳩村だが
その目はとても心配そうだった。

「確かにね、このままじゃ駄目だよ。
 この子の為にも何とかしないと」
「何とかって何をだ、一兵?」
「…一つ、考えが有るんだ」

平尾はそう言うと
そのまま刑事部屋を後にし
課長室へと向かった。

「…課長室に何の用だろう?」

山県の疑問に誰も答えは出せなかった。

* * * * * *

「…で、結局こうなる」

鳩村は呆れた表情を浮かべ
外の景色を眺めている。

「良いじゃないですか、ハトさん。
 小鳥遊班から警察犬が誕生するのも
 そう遠くない話になりそうですよ」
「教官係がアイツ等じゃ
 期待は出来んぞ、コウ…」

立花は心配要らないと鳩村を見つめる。

「よく班長が許したもんだ。
 だから課長に話を通したのか。
 流石は一兵…」

外ではあの3人が張り切っているのだろう。
寒空の下、楽しそうな声が刑事部屋にも届いていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
Home Index ←Back Next→