Act・7-1

NSM series Side・S

恐れていた事態が遂に起こった。

『新宿界隈でデカイ花火を打ち上げる』

以前、情報屋のトクさんからもたらされた
時限爆弾の予告に関する話。
規模は確かに小さい物であったが
立て続けに7件発生したのだ。

犯行声明はネット掲示板で書かれた他、
各マスコミに文書を送り付ける。
宛先名は無い。
流石に指紋を残す様なお粗末さも無かった。

「残ったのは怪文書と事件の事実だけ、か」

小鳥遊は鋭い眼差しで調書を読み上げる。

「ハト」
「…はい?」
「お前、どう思う?」
「何が、ですか?」
「この事件についてだ。
 まだ起こると思うか?
 それとも、これで沈静化すると思うか?」

鳩村は何故自分に話を振られたのかを
余り理解していなかった様だ。
少し驚いた表情を浮かべ、思案している。

「どうだ?」
「このまま終わるとは思えませんね。
 それでなくても類似犯が起こるんです。
 ホシの狙いも解らないままですし」
「…だな。俺もそう思う」

小鳥遊は深く息を吐き出し、調書を閉じた。
暫しの沈黙。
それを破ったのは一本の電話だった。

* * * * * *

「はい、西部署…」
『あぁ、この間の若い刑事さんだ』

この声は忘れられない。
大門を名指しした若い男。

「何度も言うようだけど、大門は…」
『今日は違うよ』
「…用件は?」
『綺麗な花火、見えた?』
「?!」

表情が一気に強張る。
どうしてこの男が『花火』の話題を。

『綺麗だったでしょ?
 動画を録って、ソッチに送ろうと思ったんだけどね』
「…君なのか?」
『何が?』
「……」
『守秘義務って言う奴?
 面倒だよね、そう云うの』

男は甲高い声で笑っている。
機械で声色を変えているので
不快感は尚更大きい。

『ボクは予言しただけだよ。
 百発百中の予言をね』
「……」

「替われ」

イヤホンで話の内容を聞いていた北条が
強引に立花から受話器を奪う。

「予言に百発百中は無い」
『…アンタ』
「北条だ。覚えておけ」
『北条さんね。…知ってるよ』

鳩村や立花の時とは微妙に違う。
何か奇妙な感覚に包まれる。
電話口の男の雰囲気が
明らかに変わっているのだ。

「俺の事を知ってるのなら話は早い」
『どう云う意味かは知らないけど
 俺をパクろうなんて思わない事だな…』
「精々、今の内に胡坐をかいてろ」
『…ふん』

男は苛立ちを隠す事無く
受話器を叩きつけたらしい。
会話は、其処で終わった。

「ジョー、知ってるのか?」
「いえ。直ぐには思い出せませんが」

小鳥遊の問い掛けに対し、即答する。
自分が手錠を掛けた相手なら覚えているが
どうやらそうでは無さそうなのだ。

「しかし、相手が自分を『知っている』と云う事は
 何らかの接触は有る筈なんです。
 過去の事件を洗い直して探し出します」
「頼む」
「はい」

北条はそのまま刑事部屋を後にした。
資料室に向かった様だ。

「…ハト?」

不意に山県が声を掛ける。

「ハト、お前…顔色悪いぞ?」
「あ? 気の所為じゃないのか、大将」
「真っ青だぞ?」

山県は気に掛けている様だったが
鳩村の思考は別の方向を向いていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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