Act・7-2

NSM series Side・S

北条は留置所に居た。

或る資料から割り出した事件。
本能的にその事件が脳裏に蘇り
今、こうして此処に居る。

当時を知る証人に会う為。

「お前が此処に居るって事が
 不思議なんだがな」
「ショボい仕事でお縄になったからね」
「スリなんか続けるからだ」
「ははは…」

初老の男は物怖じする事も無く
笑顔のまま、北条を見つめている。
仕事が無く、食うに困っていた。
だから昔の悪い癖が出た、と
この男は語っていた。

「他でもないんだがな、アオ吉」

北条はこの男の通称を知っている。

スリのアオ吉。
手先の器用さに掛けては天下一品だが
如何せん、注意力が不足している。
その為に何度か彼とは
追い駆けっこを繰り返した。
所謂 腐れ縁、と云う奴である。

* * * * * *

「3年前、商店街で起こった猟銃乱射事件」
「あぁ…。あれ、ワシが垂れ込んだヤツだ」
「そう。覚えてるよな?」

「あの時の犯人って確か…
 団長さんが射殺してただろう?」
「そうだ。…それと、人質になったOLが居たな」
「居たねぇ…」

「彼女の事、覚えているか?
 お前、話し掛けてただろう?」
「話し掛けたけど相手にされてねぇよ」
「…なんだ」
「される訳なかろう?」

アオ吉はケラケラと笑い声を立てている。

「んで、何だ?
 ジョーさんも遂に女に目覚めたか?」
「莫迦野郎、違うよ」
「ん? じゃあ別件かい?」
「あぁ…」
「ふ~ん…」

アオ吉は留置所の窓から覗く
青い空を黙って見つめていた。

* * * * * *

「気になる事が、一つ有ったな」
「ん?」
「OLとは関係無さそうだが」
「話してくれるか?」
「勿論」

当時の記憶を必死に思い出しながら
アオ吉は静かに口を開いた。

「団長さんを凝視してる男が居たよ」
「…凝視?」
「事件の最中だと言うのにな、
 そいつは異常な迄の雰囲気で
 団長さんを凝視してた。
 猟銃持ってる野郎よりも
 或る意味不気味だったよ」

「そいつを以前見た事は?」
「…ワシが見たのはそれ以降の方だ」
「ん?」
「再三、団長さんの現れる所で
 そいつの姿を確認してる。
 今流行の…ストーカーって奴か?」
「団長の…ストーカー……」

北条のイメージする男の姿が
少しだが見えて来た様な気がした。
しかし、ストーキングするほど
大門に固執していたのなら
今、彼が此処に居ない事は知っている筈だ。

「…待てよ? 知ってる、んだよな?」
「何だい、ジョーさん?
 独り言かい?」

「…アオ吉。その男のモンタージュ作れるか?」
「多分ね」
「頼めるか?」
「良いけどさ…。
 ワシ、此処から出されちゃうの?」
「出たくないのかよ…」
「飯が食えなくなる。
 もう暫く置いてくれよ」

緊張感の欠片も無いアオ吉の言葉に
思わず北条は苦笑いを浮かべていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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