クリスマスプレゼント

あの日からもう半年が過ぎようとしている。
ねぇ、晶。
あの人は今頃どうしているんだろうか。

* * *

年末に向けて
此処鳥居坂署も例外なく忙しい。
商店街の催しのパトロールも兼ねるから
3班、いや『ザンパン』のメンバーは
常に出払っている状態だ。

「まぁ、開店休業状態よりも
 活発な方が良いですけどね…」
田所はそう言って
一息吐こうとしていた。

そうはさせないのが
世知辛い世の中と云うもの。
デスクの電話のベルが鳴り響く。

「あぁ~もぅ!!」
田所はブツブツ文句を呟きながら
電話を取った。

* * *

「班長、此方異常無しです」
姫野の言葉に
安堵した表情を浮かべる男。
そう、仙道晴見である。

「良かったです。
 年末のパトロールを
 強化した甲斐がありました」
「そうですね。
 皆、忙しいですし…」
「あら~、ポチも言うじゃない?」
姫野に冷やかされ
『ポチ』こと、越智は照れ笑いを浮かべる。

「…良い空です。
 冬晴れの…清々しい晴れ」
空を見上げ、仙道は呟いた。

「こうして空を見上げていると…
 又会える気がするんです。
 色んな人に……」
「班長…」
「会えます…きっと。
 今日はクリスマス。
 サンタさんはこの世界に存在するんです」

「ロマンチストなんですね、班長は」
「ポチ君はサンタさんを信じてないんですか?」
「そんな年じゃないですよぉ~」
「そうですか…」

「居ても良いじゃないですか、サンタさん。
 私は信じたいな」
「姫野さん…。
 そうですよね。
 信じる事が大切なんですよね!」
賛同者が居て嬉しかったのか、
仙道は表情を途端に崩した。

「さて、もう一回りしますか」
「はい!」
「そうですね」
ザンパンのメンバーは
顔を見合わせて笑っていた。

* * *

仕事が終わり
仙道は真っ直ぐ病院へ向かった。

妻の待つ部屋に辿り着き、
その手を取る。

「晶。ただいま…。
 今日はね、パトロールをしたよ。
 商店街は今、
 綺麗なイルミネーションに彩られてる」
仙道は優しい瞳で語り掛ける。

「晶は…サンタさんを信じるかい?
 僕は信じてるよ。
 今日は綺麗な冬晴れだった。
 こんな日にサンタさんは
 人々の様子を見て回るのかもね」
優しく手を握り、擦る。
月明かりを結婚指輪が反射した。

「ねぇ、晶…」
仙道はそっと呟く。

「君がこうして居てくれる。
 仲間達も居る。
 なのに…僕は欲張りなのかな?」
そっと手を撫でながら
彼は呟いた。

「あの人に会わせて下さいって…
 サンタさんにお願いしたんだ」
晶の返事は無い。

だが、仙道の耳には届いていた。

『逢えると良いわね、その人に』

妻の温かい言葉が。

* * *

「冷えると思った…」
病院の外はいつの間にか
雪がちらついている。

その向こうに人影が見えた。
夜の闇に紛れるように…。
あれは…。
あの人は…。

「よぅ、仙道」

変わらない声。
変わらない笑顔。
会いたかった人。

「…う」
「おっと。
 此処で名前呼ぶのは止めてくれ。
 俺は姿をくらましてる最中なんだ」

その人はそう言って笑った。
私は思わずその人を抱き締めていた。

「冷たい…。
 何時から居たんですか?」
「あん?
 …忘れた」

「どうして…此処に…?」
「確実に会えると思ったからだよ。
 アンタにな」
「……」
「今日はクリスマスだ。
 だから俺はサンタクロース」

変わっていない。
この人は何も変わっていない。
優しくて、大きくて…。

「頑張ってるらしいな、相変わらず」
「えぇ…。
 皆、貴方を待ってます。
 又会える日を…」
「…そうだな」

黒ずくめでサングラスをした
妙な格好のサンタクロースは
そう言って笑った。

私は、感謝していた。
今日のこの日を。

有り難う……。
願いは、必ず叶うんですね。
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