謹賀新年

「連れて来ちゃったの?」
田所の悲鳴の様な声に
姫野は申し訳無さそうに頷いた。

「お正月なんですが…
 海斗一人にして置けなくて…」
「だけどねぇ、姫野さん…」
「良いじゃないですか」
仙道はニコニコしながら
海斗に近付く。

「海斗君…って言うんだ。
 プリン、食べますか?」
「うん!!」
海斗は元気良く頷き
仙道の手を取った。

「…人見知りする子なのに」
「そうなんですか?」
越智は不思議そうに二人を見つめている。

「そうなのよ。
 なのに班長には
 直ぐに懐いて…」
「へぇ…」
「あんなの、初めて…」
「まぁ…仙道さんの人柄なら
 判る気もしますがね」
田所はそう言うと
ふと笑みを浮かべた。

* * *

亜紀も加わって
ノンビリとしたティータイム。

どうやら今年の正月は
平穏無事に過ごせそうだ。

「奇跡ですね…」
田所の一言に
仙道はなぜか反論した。

「見事な晴れ空じゃないですか、課長。
 こんな日は、悪い事しようとする気が
 起きないものなんです」
「…はぁ~」
「人も満更捨てたものじゃ有りません」

仙道は不思議な男である。
田所は何となく納得しながら
越智にお茶の追加を頼んだ。

海斗は安心して眠っている。
その姿を姫野は母親の眼差しで
静かに見守っていた。

「良いですね、此処は…」
「えぇ。素敵な仲間達に囲まれて…
 良い職場です。
 最高です」
仙道はそう言うと
太陽の様な笑みを浮かべた。

この笑みに皆が惹かれるのだ。

ザンパンのメンバーは知っている。
この笑みが凍て付く心も溶かす。
そう、あの男の心も。

「元気にしてますかね…」
越智の独り言に答える者は居なかったが
皆、あの男の事を思っていた。

* * *

「正月位は大人しくしてろよ」
鵜飼はサングラス越しに
一瞥を食らわせていた。

「勿論。
 折角の釈放ですからね。
 自由を満喫しますよ」
「お前はそれがヤバいんだよ。
 下手に動いたら承知しねぇぞ、権藤」
権藤は笑みを浮かべている。

「信用して下さいよ。
 私と貴方の仲でしょう?」
「もう癒着云々は御免だな」
「あぁ。例のあてつけですか。
 貴方も災難でしたね」
「…ふん」

「そんなに大切ですか?
 仙道さんの事が」
「権藤?」
「何もしませんよ。
 組長の件も有ります。
 手は出しません」
「…本当だろうな」
「任侠に生きる者の覚悟、
 知らない訳じゃないでしょう?」

「…仙道に手を出したら、
 俺が許さねぇからな」
「正月ですよ、鵜飼さん。
 穏やかに行きましょう」
権藤はそう言うと
煙草を取り出した。

「吸いません?」
「…貰おう」
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