「ハッキリ述べるなら
俺達は『普通の兄弟』関係ではない」
「え?」
咄嗟に言葉が出てこなかった。
彼の言っている意味が理解出来ない。
「お前は…随分と
穢れを知らない世界で育ったらしい」
カイオウはそう云うとスッと目を細めた。
そして微かに重なる。
体温が唇を通じて伝わってきた。
「つまりは、そう云う事だ」
鈍い私にも漸く彼が
何を言おうとしているのかの一片を
理解する事が出来た。
「その事を、サヤカは…?」
「無論、知っておる」
「そ、そうなのか…」
「サヤカの事は気にせずとも良い」
妹に知られている恋人同士の関係、か。
この【私】は随分と
大胆な性格なのだな、と感心する。
「今日は何もせん」
彼は再び笑った。
「だからゆっくりと休め。
『休める時には』な」
* * * * * *
彼が去った部屋。
改めて空間の広さを感じ取る。
終始私を気遣い
今日は何もしない、と笑ってみせた。
一番不安を感じているのは
もしかすると事実を知った彼かも知れない。
それに…気になる言葉を残していたな。
『休める時には』と云う言葉。
此処が修羅の国であると云う事ならば
それは…。
「油断をすれば、死ぬと云う事…か」
今は先ず、この体が思い通りに動かせるかどうか
知っておく必要がある。
可能であればこの体でも北斗神拳が使える。
「死ぬ訳にはいかない」
流石に睡魔には抗えなくなってきた。
今日はこのまま眠る事にしよう。
全ては、明日。
* * * * * *
「兄さん、トキ兄さんは?」
「もう少し休ませた方が良かろう。
本人も多少ショックを受けた様だからな」
「そう…」
サヤカはそのままヒョウを見つめるが
彼は無言を貫いていた。
兄妹間の問題と捉えているからこそ
余計な口は挟みたくないのだろう。
「広間でいきなり倒れたとあったが」
カイオウは自分でワインを注ぎ直し
喉を潤した。
「刺客の姿は無かったんだな」
「えぇ。
飲み物にも毒は入っていなかったし
暗殺ではないと思うのだけど…」
「このカイオウの館に入り込み
暗殺を目論む愚かな輩が
居ないとも限らぬからな」
「カイオウ…」
それまで口を開かなかったヒョウだが
心配そうな表情で兄妹を見つめた。
「奴等の動きも随分と
派手になって来ている。
挑発行為も目に余る。
そろそろ何とかせんと被害が広がる」
「…そうだな」
カイオウはそう返答すると
二階に位置するトキの部屋の辺りを
見つめていた。 |