Fremde・4

誰も居なくなった部屋。
こうして見るとかなり広くて
急に寂しさに襲われた。

「起きているのか?」

背後から聞こえた声に
思わず背筋が伸びる。
声まで、ラオウにそっくりだ。

「兄さん…」
「そのままで良い」
「はい…」

言われるまま、ベッドに腰掛けた状態で
私は彼が近付いて来るのを待った。
私の目の前に立った彼は
隣に座る事無く、一言だけ発した。

「お前は誰だ?」

最初から気付いていたのだろう。
だが、サヤカ達の前では
私の正体を明かさなかった。
まだ尻尾を掴めていなかったから。
果たして、それだけでだろうか。

「まぁ、良い。何れ判る」
「兄さん、私は…」

伝えるべきなのかも知れない。
それを信じてくれるかどうかは別としても
彼だけには正直に
告げるべきなのではないだろうか。
そんな気がしていた。

「聞いて、くれますか?
 私の事。
 もしかすると、
 信じられないかも知れませんが…」
「話してみろ」
「はい…」

彼は聞くと言ってくれた。
ならば伝えよう。
私が知る限り、全ての事を。

* * * * * *

一通りは説明し終えたと思う。
だが、目の前の男は何も反応しない。
否定なら否定の意を示してくれれば
その方が随分と心も晴れただろう。
しかし、何も無い。
暫しの無言が続く。

「……」

彼はそのまま、ベッドから離れていく。
呆れて部屋を出ようというのではない。
何かを取りに行ったのだ。
それは…。

「飲むか」

コップに汲まれた冷たい水。
驚いたまま彼を見つめると
その表情は非常に穏やかだった。

「説明疲れも出ただろう。
 声が枯れていた。
 これで喉を潤せば良い」
「私の話を、貴方は…」
「信じるしかあるまい」
「え?」
「嘘だと断言する要素が無い。
 お前が此処で俺に嘘を吐く利点は?
 皆無であろう。
 ならば、お前は真実を述べているだけ」

確かに、嘘を吐く利点は無い。
却って自分に不利になるだけだ。
其処迄把握した上で彼は
私を信じると言ってくれたのか。

「…兄さん」
「カイオウ、だ」
「カイオウ、兄さん…?」
「二人きりの時はカイオウで良い。
 …今度は俺が説明する番だな」

彼が何を言おうとしているのか
恥ずかしながら
私にはまるで理解出来なかった。
それを彼、カイオウも気付いていたのだろう。
口元に笑みを浮かべ、
優しく髪を撫でてくれる。
その感触が心地良くて
私は暫し甘い余韻に浸っていた。

その意味を、直後知る事になるが。

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SITE UP・2017.08.16 ©森本 樹



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