Abreise

「此処が新しい家だよ、進」

兄さんに案内されたのは
アパートの一室だった。

兄さんは半年間だけこの部屋を借り、
防衛軍本部に勤務するらしい。
一緒に住めるのは半年間だけ。

あの後、まだ【宇宙戦士】の話は出来ていない。
兄さんは毎日多忙で
病室に戻ってくるのはいつも深夜だったし、
朝だって僕が起きた頃には
もう本部に向かった後だったから。

病院よりも本部に近いこのアパートで
僕は兄さんと生活をする。
日々の暮らしの中で、認めてもらうんだ。
僕は…僕の夢を決して諦めない。
真田さんとも、約束したから。

「兄さん、御飯出来たよ。
 コレ食べたら、洗濯するね!」
「あ…あぁ……」
「その後、僕ランニングしてくる!」
「ランニング?」
「うん。体を鍛えるんだ」
「鍛えて…どうするんだ?」
「え? だって鍛えておかないと…
 風邪引いたりしたら、
 兄さんに迷惑掛けちゃうでしょ?」
「……進」

宇宙戦士に成る為に鍛えてるとは言えない。
だけど、いつか必ず
解ってもらえるって信じてるから
その時に備えて、鍛えておくんだ。
体だけじゃなく、心も。

「気を付けて、行ってくるんだよ」

兄さんは何処か寂しそうな笑顔を浮かべて
静かに僕を見つめていた。

* * * * * *

「進、準備は出来たか?」
「うん。もう大丈夫だよ、兄さん」
「そうか…」

半年は…短い様で、意外と長かった。
この期間、俺は兄さんから様々な事を学んだ。
宇宙戦士に成ると云う事は…
決して綺麗事では無いのだと云う事も。

「…さよなら」
「ん? 何か言ったのか、進?」
「…独り言だよ。気にしないで、兄さん」
「…あぁ、解った」

最後にもう一度振り返る。
もう二度と、このアパートを訪れる事は無いだろう。
コレが最後。
だから、『さよなら』と言おう。

辛く苦しい記憶は、此処に封印する。
もう振り返らない。
此処から、俺は生まれ変わる。
【宇宙戦士・古代 進】として。

荷物を纏めた小さなバックを肩に掛け
俺は一歩前へを歩を進めた。
もう二度と戻れない道へ
漸く俺は歩き出したんだ。

兄さんの背中を見つめながら
俺はボンヤリと考えてみる。
この先に待ち構えているものを。

不思議と、不安は無かった。
それが自分で少し可笑しい。

何故なんだろうな。
真田さんが教えてくれた、
二人の学生時代を思い出したから?

俺も見付かるんだろうか。
そんな相手が。
心から信頼し合える戦友が。

「いずれ解る事だよな」

俺はそう呟き、更に歩を進めた。
偉大なる我が兄、守に
少しでも速く追い付く様に…と。

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SITE UP・2010.06.10 ©Space Matrix

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